漱石と倫敦ミイラ殺人事件  


 2013.3.30    現実の出来事か? 【漱石と倫敦ミイラ殺人事件】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

夏目漱石とシャーロックホームズがロンドンで出会う。これだけだと、かなり荒唐無稽な物語のように思えてしまう。時代的には一致するのだろうか。ホームズと漱石に詳しければより楽しめることは間違いない。メインはホームズで、漱石がホームズの奇抜な推理に驚きながらもポイントで鋭い指摘をする。

なぜ、あえてこの二人なのかという謎が残るが、両者の立場がよくわかり非常に面白い。特に漱石がロンドンでどのようなことに苦労したのか。ホームズがモリアーティ教授との戦いのあとどうなったのか。作者のたくましい想像力により、ここに新たな物語が作り上げられている。ミステリーとしては特別驚く要素はないが、二人の競演が新しさを感じさせる。

■ストーリー

英国に留学中の夏目漱石は、夜毎、亡霊の声に悩まされ、思い余って、シャーロック・ホームズの許を訪ねた。そして、ホームズが抱える難事件の解決に一役買うことになる。それは、恐ろしい呪いをかけられた男が、一夜にしてミイラになってしまったという奇怪な事件であった!

■感想
夏目漱石とシャーロックホームズ。作中には二人に関しての様々な伏線がある。おそらく二人に関しての知識が豊富な人であれば、この記述はあのことを言っているのだな、とすぐに気づくことだろう。

映画版の「シャーロックホームズ」を見ていたので、シャーロックホームズに関してはそれなりに感じるものがある。自分の印象を補完するような記述があると、なんだかうれしくなる。対して、漱石についてはごく一般的な知識しかないので、おそらく高度な伏線が張られているのだろうが、それにはほとんど気づかなかった。

物語はロンドンで発生した奇妙なミイラ殺人事件がメインとなる。当然、事件を解決するのはホームズなのだが、そこで漱石がちょっとしたアドバイをする。ワトソンと漱石二人の視点が交互に描かれ物語を進めていくのだが、お互いの思惑のずれが感じられて面白い。

まったく同じ状況であっても、ワトソンと漱石では感じ方がまるっきり違うというのがよくわかる。あえてこのような描き方をしているのだろうが、ちょっと深読みしてしまった。二人は違うホームズを見ているのでは?と思ってしまった。

ミステリーとしては、特別驚くようなことはない。ホームズと漱石のキャラクターがやけに合っているように感じられるので、読んでいる間中、ホームズはロバートダウニーJrをイメージし、漱石は例のひげ面を想像した。

確立されたキャラクターが動き回るのは、イメージが出来上がっているのでやりやすいのはわかる。が、逆にイメージと違う動きをさせると、とたんに嘘くさく感じてしまう。その点、本作の二人は自分がイメージしたとおりの行動をとったので、物語に入り込むのが容易だった。

まるで現実の出来事のように思える物語だ。




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