空より高く  


 2013.4.3     なんだかんだで青春だ 【空より高く】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

廃校が決まった最後の在校生。平凡な高校生が、昔ながらの熱血教師に感化され、様々な行動を起こす。まさしく”青春”という文字が似合う作品だ。今どきの高校生風ではあるが、根本の部分では昔ながらの青春一直線な高校生と変わらない。

熱血教師であるジン先生にあおられ、告白してしまうムクちゃん。あまりに単純すぎて、違和感を覚えてしまうが、このまっすぐさが良いのだろう。何に対しても一直線で突き進む。多少の悩みや不安があったとしても、前に進む。

重松清らしくない作品だ。どちらかといえば、石田衣良的な、なんだかんだあっても、最後は青春だ。という単純さが常に心の中にこびりついていた。自分の学校が消えてなくなる。最後に何かをしなければ、というはじけた勢いを感じる作品だ。

■ストーリー

僕らは廃校が決まった東玉川高校最後の生徒。平凡な高校生として、それなりに楽しくやっていたのに、赴任してきた熱血中年非常勤講師・ジン先生のせいで調子がくるった。通学路で出会ったピエロさんの大道芸に魅せられた僕は、

ジン先生の持ち込んだ迷惑な「ウイルス」に感染して…。思わぬところから転がり込んだ「セーシュン」、そして明らかになる、ジン先生の―トンタマ一期生の、過去。

■感想
廃校が決定したトンタマ高校。作者お得意の玉川ニュータウンものだ。大きな計画をぶち上げたはいいが、高齢化がすすんだニュータウンはだんだんとさびれていく。その結果として高校が廃校となる。単純に過疎化がすすんだ田舎の廃校とはまた違ったおもむきがある。

最後の卒業生となるはずの男子3人がおりなす物語なのだが、およそ今の高校生らしくない。熱血教師がいたとしても、冷めた目で眺めるのが今の高校生だろう。一緒になって後先考えずに突っ走るなんて、今の打算的な高校生がやるはずがない。にもかかわらず、それをまっすぐに描くのが作者のすごい部分だ。

熱血教師のジンに感化される高校生たち。一番強烈なのは、勢いで告白してしまうムクちゃんだ。高校生女子がいくら勢いだとはいえ、いきなり告白するだろうか。そんな疑問も、物語がすすんでいくにつれて気にならなくなる。

ジン先生のウィルスにやられ、周りの仲間が次第にとんでもないことをやり始める。さすがにそれは…。と思うことも多々ある。ただ、やらなかったことで後悔するよりも、やったあとで後悔する方が良いという言葉に、妙に納得してしまった。

読んでいると、自然に心が熱くなる。ジャグリングを練習し、最後の思い出として発表会を開く。消えゆく学校のことよりも、反体制というか、当たり前ではない方向へと突き進む方が良いような流れになっている。単純にそれだけではないのだろうが、すさまじい勢いがある。

大盛りラーメンをみんなで食べ、イベントを開催する。青春でイメージすることをそのまま、何も考えずに物語にしたような作品かもしれない。単純明快で、人を元気づけるパワーがある。

廃校を舞台にしたわりには、作者の今までの作品のような、しんみり感が微塵もないことに驚いた。




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