静人日記 -悼む人Ⅱ-  


 2013.9.8     わき起こる悲しみ 【静人日記 -悼む人Ⅱ-】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

悼む人」に登場した静人の日記。静人がどんな旅をし、どんな人たちと出会い、何を感じたのか。予想通り、人の死に対する描写が続く。日記形式のため、ひとつひとつは短いのだがインパクトのあるものから、そうでないものまで様々だ。ただ、立て続けに事故や事件で死んだ人の物語を読まされていると、麻痺してしまう。

感情移入しやすいエピソードと、し難いエピソードといった方がよいのかもしれない。それぞれ特殊な状況であることは間違いないが、静人の旅を追い続けるにつれ、死に慣れていくような感覚すらある。他者とのかかわりが希薄かと思われた静人にも、実は深いかかわりを持った人もいたのだと、「悼む人」の静人とは違った印象を持った。

■ストーリー

見知らぬ死者を悼み、全国を放浪する坂築静人。時には拒絶され、理不尽な暴力さえ受けながら、静人の悼みは人々の心に様々な波紋を広げていく。やがて静人に、ある女性との運命的な出会いが訪れる―。毎夜、著者は“静人”となり、心にわきたつものを“日記”に書きとめた。

■感想
静人がどのように悼みの旅を続けてきたのか。「悼む人」では、静人を見る他人の目でしか語られていないが、本作ではまさに静人の心境がそのままつづられている。静人は悼む旅で何を考え、何を思ったのか。基本的には、人の死に対するエピソードがつづられている。

死者がどのように愛されていたかが描かれているため、感情移入しやすく、悲しみを誘発しやすい。特に、幼い子供の死に関しては、自分にも子供がいることを考え、感情移入し悲しみがわきおこる。その悲しみを、ちょっとした感動と感じてしまう可能性すらある。

死のエピソードが続いていくと、中盤以降には麻痺してくる。ひとりひとり違ったエピソードなのだが、どこか心の中では最初のエピソードよりも流し読みしてしまった。それはなぜかというと、若干飽きてきた感覚に近いかもしれない。

静人が絶えず人を悼み続けることがどれだけ大変なことなのか。ただ、死のエピソードを続けて読むだけでも、心がつらくなり、果ては飽きてくる。静人がすべての人の死を悼むことができないことに苦しむのは、到底理解できることではない。本作を読むと、静人の特殊さがより強まった感じだ。

本作では、静人に恋人のような存在が登場してくる。ここで、静人に人間らしさというか、静人もふつうの青年なのだと思わせられた。物語として何か強烈なインパクトがあるわけではない。ただ、淡々と静人が人と出会い、悼みを続けることが描かれてる。

人の優しさや厳しさ、そして、どんな人にも死は訪れるというのを、あらためて認識させられた。どの人にも偶然に死が訪れることはある。不運だと言ってしまえばそれまでだが、辛い。死とは何なのか、「悼む人」よりも深く考えさせられる作品だ。

変わらないのかもしれないが、静人のその後を読んでみたくなる。




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