沈まぬ太陽


 2011.4.4  組織の力に負けない男 【沈まぬ太陽】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
長大な原作をしっかりとまとめている。実際に起こった日航機墜落事故を元ネタにしていることはあきらかで、冒頭の描写はかなり心に重くのしかかってくる。本作は、墜落事故の扱いをメインにするのではなく、あくまでも、巨大組織の中で自分の信念を貫いた男が、どのような目にあってきたかを描いている。原作に沿ったすばらしい出来栄えだと思うが、印象としては、労働組合というのはこれほど力があり、組合に命を懸けるような社員がいるのだという驚きが大部分を占めていた。政治や権力の醜い部分をこれでもかと表現し、一人正義の男、恩地が自分を信じ行動する。格好良すぎるが、その後日本航空がつぶれたことを考えると、組合もひとつの原因なのだろうと思わずにはいられなかった。

■ストーリー

日本が経済大国へと上り詰めていく昭和30年代から60年代を舞台に、巨大組織に翻弄される主人公・恩地元の生き様を通して人間の尊厳を問い掛ける人間ドラマ。

■感想
原作は非常にすばらしい作品だった。本作は時間の関係上、物語をひとつの要素に絞っている。墜落事故のその後の対応や、原因究明の話などはほとんどなく、ひたすら巨大すぎる企業がどのようにして衰退していくのかが描かれている。その中で、組合に力を入れ、その結果、会社からとんでもない人事を押し付けられた恩地という男の行く末が描かれている。ただ、本作は恩地目線なので、海外の僻地へ異動というのを嘆いてはいるが、よく考えたらそこにも駐在員はいるのだ。別に恩地だけでなく、他の日本人も普通に働いている。さすがに、その後のケニアなどはとんでもない場所だと思うが…。

国民航空という、明らかに日本航空を意識した組織では、とんでもなく汚職にまみれた世界として描かれている。賄賂や権力争いなど、おそらくどの企業でも行われていることが、露骨に描かれている。そのため、相対的に恩地に感情移入し、弱い者たちに容赦のない企業側に怒りの感情がわいてくる。それと共に、印象的なのは労働組合の強さだ。いくつもの組合が乱立するような会社組織では、仕事がまともにできないのではないかと思えてしまう。通常業務よりも組合の活動に力を入れる。そんな社風だったからこそ、現在の日航に繋がることになったのだろうか。

本作は明確な結末というのがない。因果応報、悪いことをしていた奴は、それなりの結末を見る。しかし、清廉潔白であるはずの恩地も、なぜか僻地へと飛ばされることになる。しかし、それは恩地自身が望んでいるかのような描かれ方をしている。はっきり言えば、こんなサラリーマンは存在しないだろう。長いものには巻かれろ的な考えがサラリーマンの常識だ。普通のサラリーマンではありえない。やろうとしても絶対にできない、ヒーロー的存在が恩地なのかもしれない。あこがれるが、その末路を見ると、なりたいとは思わない。

原作の魅力を損なうことなく、映画化したのはすばらしい。



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