寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁  


 2012.7.26   不可能な状況からの抜け道 【寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

死者が飲む水」と同じ流れをくむ作品だ。物理的に不可能と思われた状況で、事件が起こる。すでに死んでいるはずの女が、寝台特急で東京から九州へ向かう。それは、この世のものではないモノを印象づけつつ、論理的な答えを最後に示している。今回も時間との戦いで、数分単位の攻防だ。風呂に浸かったまま死んだ女の死亡推定時刻が曖昧なため、それなりの猶予はあるが、それでも、印象として”不可能”としか思えない。すでに死んでいるか、死ぬ直前、もしくは死んだあとの女が、寝台特急に乗って熊本まで行く。その驚愕なトリックとは…。この手の時刻表トリックが好きな人にはたまらないだろう。刑事やその他のキャラクターが平凡なことが、逆にトリックを際立たせている。

■ストーリー

双眼鏡で覗きをしていた男が、豪華マンションの浴室で顔の皮をはがされた若い女の死体を発見!だが、割り出された死亡推定時刻に彼女は、「はやぶさ」に乗っていた。不可能を可能にしたトリツクは何か?時間の壁と“完全犯罪”に敢然と挑む捜査一課の吉敷竹史の前に、第二、第三の殺人が…。

■感想
まず冒頭、死体を発見するくだりが衝撃的だ。顔の皮をはぐという凄惨な事件と、死亡したはずの女が「はやぶさ」に乗車していたという事実。死亡推定時刻のさなかに東京から熊本に向かう寝台特急に乗るという不可能な出来事が起こると、否が応でも超常現象的なオチを想像してしまう。幽霊なのか、それとも幻なのか。はたまた、小さい頃に生き別れた双子なのか。本作では非科学的な答えはない。あとづけのように、そっくりさんが登場した、なんてこともない。物語として王道な答えを示している。

「死者が飲む水」と同様に王道の時刻表トリックだ。時間的に不可能な状況をどのようにして整合性を保つのか。死体が勝手に動くわけもなく、物理的には不可能となると、あとは何かウルトラCがないと納得はできない。事件の複雑さはそれほどでもない。被害者やその周辺をさぐり、怪しげな人物をピックアップする。濃密な人物紹介がある者は当然怪しくなる。犯人らしき人物として女の部屋から逃げ出した男は、なんてことない小物だというのはすぐにわかる。ミステリーとしての基本がしっかりと抑えられている作品だ。

不可能と思われた時間のトリックが解決すると、その先には、思いもよらないもうひと捻りがある。主役であり、敏腕刑事である吉敷が事件を推理し、披露する。普通ならばここで終わりのはずが、物語はまだ続いていく。物語の中で登場したかすかな伏線が、それなりに活きている。最後のひと捻りに大きく驚くかというとそうでもない。しかし、単純と思われた事件には、実は過去から続く因縁があったのだった。寝台特急という、時代を感じるものが鍵となっているので、全体的に古臭さは否めないが、時刻表トリックが好きな人にはたまらない作品だろう。

不可能と思われた状況にも、抜け道はある。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp