死者が飲む水  


 2012.7.7   複雑な時刻表トリック 【死者が飲む水】

                      評価:3
■ヒトコト感想
札幌、水戸、銚子、東京と日本各地に渡る被害者の足取り。そこから、時間的な制約により容疑者を絞り込み、犯人を追いつめていく。列車の時刻表から実行可能かを判断するたぐいがほとんどの本作。時刻表トリックが好きな人にはたまらない作品かもしれない。二つのトランクの動きと、犯人の足取りを追いかけることがメインであり、動機などについてはあまり重要視していない。ミステリをロジカルに考える人にとっては、時間との戦いで、実行可否を判断するのは楽しいのかもしれない。どちらかといえば、時刻表とにらめっこして考えるのは苦手なので、そのあたりは辛かった。ただ、犯人が判明し、その動機が明らかになると、物語全体に言いようのない物悲しさがあふれるような気がした。

■ストーリー

札幌の実業家・赤渡雄造の家に届いた二つのトランク。その中に入っていたのは、バラバラ死体となった赤渡本人だった。鑑識の結果、死因は溺死と判明する。だが、刑事・牛越の必死の捜査にも拘らず、関係者すべてに鉄壁のアリバイが!死者の飲んだ水に秘められた、悲しき事件の真相とは!?

■感想
二つのトランクに詰め込まれたバラバラ死体。東京、水戸、そして殺害現場である銚子と、日本各地をめぐり、最後には北海道へと届けられる。被害者の殺害前日の足取りから、容疑者はある程度絞られてくる。刑事である牛越が、容疑者をピックアップし、事件を解決しようとするのだが…。まず、事件の不可解さが尋常ではない。トランクに死体を詰め込み、それを被害者の家に送り届けるなど、普通の神経ではない、狂人の仕業と思ってしまう。にもかかわらず、登場する容疑者たちからは、イマイチ犯罪の臭いを感じない。読者は牛越と同じ目線で事件を追いかけることになる。

中盤以降は、どのように東京、銚子と移動したのかがアリバイと交えながら語られている。その際に登場してくるのは、時刻表だ。何時の電車に乗れば、この時間には銚子に到着し、殺害現場までは走って何分だから…。さも当然のように語られる証明。この手の作品の定番かもしれないが、時刻表を追いかけるあたりがまったく理解できなかった。路線を乗り継ぎ、なんとか時間内に犯行可能だと証明したからといって、それであっさり事件が解決するわけではない。最近のミステリ小説ではめっきり見なくなった手法だ。

犯人が明らかとなる終盤。その動機を語るシーンでは、思わず心打たれてしまう。どういった理由で凶行に至ったのか。計画自体はかなり行き当たりばったりに思えるが、その裏にひそんだ憎しみや恨みというのは相当なものだ。過去の悲しい出来事が、現在の事件へと繋がっていく。それは死者の胃の中にある水がヒントになるのだろう。かなり強引な展開で、時刻表トリックに興味がなければ辛いかもしれない。それでも、事件実行にいたる動機を読むと、悲しみの中に、ほんの少し納得感が生まれてきた。

時刻表トリックが好きな人に、はたまらない作品だろう。




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