色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  


 2013.10.28     ハブられた経験 【色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年】

                      評価:3
村上春樹おすすめランキング

■ヒトコト感想

多崎つくるの人生におけるターニングポイントを描いた作品。常に一緒に青春時代を過ごした4人の仲間から突然、二度と合わないと告げられたつくる。そこから死の淵をさまよい、復活し過去の真相を探る。つくるが、作者の描く登場人物にはよくある、落ち着いた人生を過ごす人物であり、どんな深刻な状況も冷静に受け止めるキャラクターだ。

仲間から別れを告げられ、絶望に突き落とされたつくる。人は理由もなく周りから排除されたとき、どのように感じるのか。作中のつくるは、死を考えた。人を死にまで追い詰める状況というのは、様々な理由があるにせよ、とてつもない出来事だ。つくるが自分の過去と向き合い、真相を知るまでの辛い状況というのが、ひしひしと伝わってくる作品だ。

■ストーリー

良いニュースと悪いニュースがある。多崎つくるにとって駅をつくることは、心を世界につなぎとめておくための営みだった。あるポイントまでは…。

■感想
主人公、多崎つくるは名前に色が入った4人の仲間と青春時代を過ごした。が、ある日突然、二度と連絡するなと言われる。俗にいうハブにされた状態だが、つくるは内省的になり、しまいには死を考えることになる。つくるの考え方は、ごく当たり前の日本人が思うことだろう。自分が何かしたのか?なぜ皆にハブられなければならないのか?

結局真相を知らされないまま、連絡を取らずフェードアウトする。その時のつくるの悲しみは伝わってきた。が、怒りや憎しみがないのは特殊だ。普通ならば他者に対する強い怒りを感じるところが、つくるはその性格から、怒りを感じない。

成長し社会人となったつくるは恋人から4人に理由を聞けと言われる。これがタイトルにあるように巡礼の年なのだろう。過去の辛い出来事にあえて自分から飛び込んでいくのは勇気がいることだ。つくるは勇気をだして昔の仲間に会いに行く。そこで真相がはっきりするのだが、そこからつくるが劇的に変化することはない。

なぜあのとき、自分を仲間外れにしたのか。という怒りの気持ちをぶつけるのでもない。淡々と当時の状況を聞くつくるには、悟りを開いたようにも感じてしまう。つくるの安定感はある意味異常にすら思えてくる。

多崎つくるは規則正しい生活をし、平穏な暮らしを続ける。作者のこの手のキャラの安定した生活はうらやましくもあるが、つまらないように思えてしまう。衝撃的な真実を知ったとしても、そこから大きく変わるわけではない。

ある意味、人間味のない、ロボットのようなキャラクターに思えてしまう。生身の人間にある、怒りや憎しみや嫉妬というものがほとんど表現されない。物語として読むと、リアル感はないが、心の安定した登場人物は、読者の心をどこか安定した平穏な気持ちにさせる効果がある。

多崎つくるが物語の安定感を増幅させている。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp