仙台ぐらし  


 2012.12.19    震災。そのとき作者は… 【仙台ぐらし】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

仙台のエッセイ。作者が仙台在住というのは有名だ。作品にも仙台が舞台となったものが多い。カフェで執筆したり、ちょっとしたことで心配性になったりと意外な一面も垣間見える。ただ、メインはやはり震災後のエッセイなのだろう。そのとき、作者は何をしていたのか。その後、どのような思いで作品を執筆したのか。仙台というと、津波でかなりの被害を受けたというイメージがある。が、仙台といっても広いので、作者の周辺ではそれほど大きな被害はなかったようだ。それでも、震災はトラウマとして残り、恐らくだが、今後執筆される作品に何かしらの影響をおよぼすのだろう。単純な仙台エッセイではない。震災を身近に感じた作家の告白だ。

■ストーリー

仙台市に暮らすベストセラー作家の伊坂幸太郎氏の、震災後初のエッセイ集。地域誌『仙台学』の1号から10号まで(2005年から2010年)の連載エッセイ「仙台ぐらし」(全面改稿)と、単発エッセイ1編に、震災後のエッセイ「いずれまた」「震災のあと」「震災のこと」、そして宮城県沿岸を舞台に移動図書館(ブックモビール)で本を届けるボランティアを主人公とした書き下ろし短編「ブックモビール a bookmobile」を収録。

■感想
仙台のエッセイといっても特別なものではない。人口ひとりあたりのタクシーが多いだとか、ちょっとした小ネタはある。「~が多すぎる」というくだりでエッセイは続いているのだが、相変わらずの丁寧な語り口で、作者の思いが語られている。タクシー車内での運転手との会話は、たわいのないことなのだが、作者の人柄があらわれているようで面白い。それ以外にも、声をかけてくる人すべてが、自分の作品のファンだと勘違いしてしまうくだりや、ひとりで自意識過剰になる部分など、面白エッセイが続いている。

大笑いできるような面白さではない。カフェで執筆する場合、隣に座る人になんだかんだと話しかけられるなど、ちょっとした苦労もある。気に入ったカフェが次々とつぶれてしまうのも、気の毒だが、妙な面白さがある。仙台は行ったことがないので、あまりイメージがわかないが、作者のエッセイから仙台らしい部分はあまり思い浮かばなかった。牛タンのエッセイでもあれば、瞬時に仙台だと連想できるのだが、もともとが仙台のローカル向けのエッセイなので、あえて仙台をアピールする必要がないのだろう。

震災後のエッセイは、作者の震災に対する思いというのが伝わってきた。重松清の作品でも、同じように震災後の物語を読んだことがある。どちらも真剣なのだが、スタンスが違う。本作では、震災は深刻なこととして受け止めつつ、絶妙なユーモアがある。移動図書館をボランティアで続ける男の話など、実話をベースにしているはずだが、キャラクターが伊坂仕様になっているので、そのとぼけた言動が面白くて仕方がない。暗くどんよりとするよりも、くだらない話で楽しい気分になる方がよっぽど前向きなのだろう。

震災後、誰もがショックを受けたのは当然として、作家としてどのように作品に影響がでるのか、気になるところだ。




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