希望の地図  


 2012.8.14   「希望」の意味は? 【希望の地図】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

3.11の東日本大震災後、作者がライター・田村章としてインタビューした被災者たちの物語。不登校の中学生を主人公に、被災者たちの現状を描く。物語化されてはいるが、被災者たちの言葉や行動はすべてリアルなのだろう。不登校中学生に「希望」の意味を問い、「絶望」の意味を考えさせる。本作は不登校中学生を立ち直らせるための物語ではない。作者の作品の方向としては、中学生に「希望」が生まれてはいるが、それはオマケにすぎない。作者が真に伝えたいのは、被災者の現状と、復興へどのような取り組みをしているかということだ。テレビのニュースや、ネットなどで震災の状況を読むのとはまた違う、物語だからこそ表現できる、被災者の真の姿というのが表現されているような気がした。

■ストーリー

2011年3月11日。人々の価値観や生き方が、大きく変えられてしまった「あの日」。それでも人には、次の世代につなげるべきものがある。いわき、石巻、気仙沼、南三陸、釜石、大船渡、そして福島・飯舘。幾度となく被災地に足を運んだライター・田村章と、中学受験に失敗し不登校になってしまった少年。二人は、そこでどんな人に出会い、どんな涙を流し、どんな新たな幸福への道すじを見つけたのか。去ってゆく者、遺された者の物語を書き続けてきた著者が、「希望」だけでも「絶望」だけでも語れない現実を、被災地への徹底取材により紡ぎ出し、「震災後」の時代の始まりと私たちの新しい一歩を描いた渾身のドキュメントノベル!

■感想
作者が被災地への取材により得た情報を物語化した作品。不登校の中学生が主人公ではあるが、それは物語を彩るちょっとしたオマケでしかない。被災地の現状を知り、被災者たちはどのようにして「絶望」の中で「希望」を見出したのか。未曾有の大災害を経験し、何もかもなくした人たち。すべてをなくしたゼロからのスタートであっても、たくましく前に進もうとする。その姿が、不登校の中学生の力となり、不登校から抜け出すという流れはわかりやすい。被災者の人たちがこんなに頑張っているのだから…。なんて考えるのは簡単なのだろう。

本作の被災者のエピソードは、おそらくすべて真実なのだろう。工場がすべて津波で流されたとしても、すぐに復興しようとする。単純に考えれば、「津波がなければ」「地震が起きなければ」というたらればのことを考え、無駄に借金を背負った今に悲観するだろう。それらが、復興に邁進する人々にはいっさいない。すべてが嫌になり、何もかも投げ出してしまいたい気持ちになりそうだが、そうはならない。この諦めない気持ちというのは、不登校の中学生でなくとも、心打たれる何かがあるだろう。

震災後、1年経ち自殺する人も多いらしい。未来に「希望」が見出せず、「絶望」に襲われた結果、そのような決断をしたのだろう。大震災という、とんでもない出来事に直面した人たちが、どのようにして「希望」を見出したのか。本作を読むと、月並みかもしれないが、「こんなに苦労しても頑張っている人がいるのだがら、自分はまだマシだ」という他人との比較による自分の立ち居地の幸せさを実感するだろう。ものすごく低レベルかもしれないが、それが人間の本質だ。

「希望」を見出すことができない人は、読んでみるといいだろう。




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