製鉄天使  


 2012.1.7  赤朽葉家外伝? 【製鉄天使】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

赤朽葉家の伝説」の物語を一部切り取ったような本作。レディースである”製鉄天使”が中国地方で暴れまわる様子が描かれている。赤朽葉家に比べると、やはりバックグラウンドが描かれていないので深みがない。基本的に赤朽葉家を読んでいることを前提にすべき作品なのだろう。”花火”や”ハイウェイスター”などといった新たなキャラクターが登場するが、鉄を操る小豆が苦難を乗り越えながら中国地方を統一するという物語だ。かなりぶっ飛んだ作品であることは間違いない。赤朽葉家の濃密な雰囲気はなく、どこか軽い印象があるが、製鉄天使たちのありえない行動などを読んでいると、自然と読み進める手を止めることができなくなる。

■ストーリー

辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―あたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。

■感想
レディース”製鉄天使”の初代総長の小豆。これは間違いなく「赤朽葉家の伝説」の毛鞠のことなのだろう。毛鞠が不良少女から少女マンガ家へ変化したのに比べ、本作では小豆は最後まで不良少女のまま信念を貫き通す。物語の核となるエピソードは、赤朽葉家でのエピソードとほぼ同じ。ただ、小豆の母親や、家にまつわるエピソードが抜けているために、赤朽葉家を読んでいないと面白さが半減するだろう。なぜ鉄を自由自在に操れるのか。真っ暗闇の山の中で迷わず進むことができるのか。物語の壮大さでいえば、間違いなく赤朽葉家の伝説にはかなわない。

本作には本作の特徴がある。製鉄天使として中国地方各地を統一していくくだりでは、多少ミステリー的な流れもあり、ちょっと変わった参謀が登場したりとバラエティに富んでいる。そんな中でも一番のポイントであるスミレの存在や、仲間たちとの関係など、軽さの中にも変にしんみりする部分がある。レディースとして中国地方を統一するというとんでもない設定はさておき、喧嘩では負け無しであったり、硬派でありながら恋愛はしっかりしているところなど、ただのヤンキー物語ではないことは確かだ。

鉄を支配する能力を持つ少女。ふざけているのかと思える物語の流れなのだが、赤朽葉家を読んでいれば、その物語の深さに気付くことだろう。小豆の兄弟や、家族との関係などもサラリと流されがちだが、実は深い意味がある。19歳になること、つまり大人になることを、まるで人生が終わってしまうかというほど恐れる小豆。製鉄天使としての暴走のインパクトよりも、小豆というちょっと変わった女の子の生き様を読むことに集中してしまう。常に赤朽葉家の毛鞠の隠されたエピソードのように感じてしまう。

赤朽葉家の伝説は事前に読んでおくべきだろう。




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