逝年  


 2011.8.8  ターゲットは中年女性 【逝年】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

娼年の続編ということで、前作を読んでいないと詳しくはわからないかもしれない。相変わらずリョウはスマートで何にたいしてもソツがない。前作のイメージをそのまま引継ぎ、クラブの仕事に生きがいを見出している。ボーイズクラブを復活させ、新たな仲間を引き入れ順風満帆に物語は進んでいく。前作ほど危機的状況はない。クラブメンバーの親が文句を言いにくるくらいなので、どちらかといえば平和に日常が過ぎていくといった感じだろうか。もちろん、最後の最後にはお決まりどおりエイズを発症した静香と最後の時をすごすことになる。キャラの軽さは前作と同様。読み終わってもなんだか薄っぺらな印象しか残らない。もしかしたら、性別と年代によっては感じる印象が違うのかもしれない。

■ストーリー

人生にも恋愛にも退屈していた二十歳の夏、「娼夫」の道に足を踏み入れたリョウ。所属するボーイズクラブのオーナー・御堂静香が摘発され、クラブは解散したが、1年後、リョウは仲間と共に再開する。ほどなく静香も出所するが、彼女はエイズを発症していた。永遠の別れを前に、愛する人に自分は何ができるのか?

■感想
娼年のときに感じた軽さはそのまま、ストーリー的にも大きな変化はない。新しい仲間が増え、多少のトラブルはあったとしても、クラブは順調に進んでいく。前作もそうだが、しつこいほど中年女性との性的描写が続くのだが、そこに卑猥さはない。全体の軽さというか、キャラクターの薄っぺらさが良い方にはたらき、隠微な雰囲気はない。人間味があまり感じられないのはなぜだろうかと考えると、リョウたちを買う女たちが、やけに洗練されているせいかもしれない。現実に存在しているのだろうが、あまりにステレオタイプなセレブのため違和感を覚えるのだろう。

本作に感情移入できるのは、限られた年代かもしれない。もしかしたら女性で、ある程度の年齢の人には、心に響くものがあるのかもしれない。作中ではリョウの言葉を借りて、作者が読者にメッセージを送っているのだが、それが中年女性に対しての励ましのように聞こえてならない。このあたりが読んでいてひっかかる部分かもしれない。中年女性が若い男を買うことが悪いとは思わないし、そういう世界があってもいいと思う。ただ、リョウのあまりに綺麗ごとすぎる言葉が、違和感を増幅させているのだろう。

もしかしたらこのシリーズは続くのかもしれない。静香との永遠の別れというのは、すでにある程度わかっていたことであるし、流れも予想できた。ボーイズクラブ的には存続しており、主要メンバーもしっかりと残っているので、続編はありえるだろう。内容のわりに、変な生々しさがないのが良い部分でもあるし、もしかしたら、物足りないと感じる人もいるかもしれない。ただ、本作のターゲットは間違いなく、男ではないような気がしてならない。

前作に感動できれば、本作も間違いなく感動できるだろう。




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