娼年 石田衣良


2009.12.24  変に清潔な感じがする 【娼年】

                     
■ヒトコト感想
男娼を描いた作品。性的な描写が多いが、なせかものすごく清潔な印象を受ける作品。衝撃的な何かがあるわけでもなく、淡々と流れていく物語。本作に描かれる描写はどれも綺麗で幻想的で、そして隠微な雰囲気はほとんど感じさせない。しかし、相手の女性の年齢がそれなりの年齢だということを想いだすと、なんだかかなり文章に騙されているような気がした。頭の中で詳細に思い浮かべるのは、かなり美化された四十代であったりする。嫌悪感をいだくというほどではないが、全てをそのまま受け入れられるほど好意的にはとらえられない。作者の作品らしく、若々しさの中にも影を感じさせるものがある。それにしてもこの主人公には薄っぺらい印象しか残らなかった。

■ストーリー

恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく…。

■感想
容姿端麗でモテるが、クールでどこか未来に対しての希望がなく、ただ漠然と日々を過ごしているリョウ。ずいぶんとありがちなキャラクターだ。そんなリョウが会員制クラブのオーナーである御堂静香から誘われて「娼夫」となる。とっさに思ったのは、男に相手にされないおばさん連中が客としてやってくるのだろうということだった。しかし、物語中の序盤ではまったくそんなことはなく、美しい妙齢の女性ばかりが登場する。なんて都合の良い展開だと思ったが、後半では濃い目の性癖をもった女性やおばあちゃんといっても良いほどの女性も登場してくる。

生々しい描写がいくつかあるが、それを読んだときにそれほど生々しさを感じなかったのは、作者の文体のおかげだろう。描写はそのものずばりであっても、どことなく綺麗さというか幻想的な美しさを感じさせる何かがある。リョウが母親以上の年齢の人と交わっていたとしても、そこに悪意ある描写はない。すべてを好意的にとらえ、どんな欠点であってもそこに別の魅力を見出し表現している。作中の娼夫そのままに、どこか良いところを見つけて美しい描写に仕上げようとしているようでもある。

リョウのキャラクターがいまいちはっきりしなかったのには、何につけ理由付けがされていないせいだろう。ただクールだからというそれだけを理由にされてもピンとこない。娼夫を一生の仕事としようと考える決定的な何かが足りない。結局流されて、惰性でずるずると進んでいるように感じた。リョウというキャラクターに厚みを感じることができなかったために、すべてが虚構の中の作り物のように感じてしまう。どんな性描写であっても、そこに熱を感じられなかった。綺麗過ぎるというのが一番の問題かもしれない。

この手の作品は、かなり好みが分かれるだろう。



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