聖女の救済  


 2011.1.8  ある意味、完全犯罪だ 【聖女の救済】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ガリレオシリーズ。物語の形式としては容疑者Xの献身と同じだが、驚きは少ない。トリックとしての驚きや意外性は少ない。ただ、ガリレオが不可能な犯罪と言うあたりから、どんな複雑なトリックなのかと興味をひかれてしまう。結果として意外ではあるが、特別な驚きはない。ただ、タイトルにあるように聖女が救済し続けたという、普通の人間では考えられない心理をトリックとしたのはすばらしい。オチとしての驚きよりも、まさかそんなことを題材として取り上げるのかという驚きの方が強い。本作ではドラマ版で登場した女刑事が初登場し、ドラマを意識した作りになっている。容疑者Xとまではいかないが、読み応えはあり、トリックの種明かしでもがっかりすることはない良作だ。

■ストーリー

男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。

■感想
ガリレオシリーズとなると自然にハードルはあがってしまう。容疑者Xの献身がすばらしかっただけに、なおさら期待値は上がってしまう。シリーズとしては一つの事件を延々と扱うということで、かなり濃密なものとなっている。しかし、そのわりには動きがなく、登場人物も少なくコンパクトな仕上がりとなっている。ダイナミックな事件ではなく毒物混入という、どちらかといえば地味な事件なので、大きな展開は難しいのだろう。どこか箱庭的というか、身内でごちゃごちゃと事件の真相を探り合っているようなそんな印象が強かった。

毒物はどのようにして混入されたのか。そこがメインであり、鑑識や特殊機関が毒物の痕跡探しに必死となる。どことなく、毒物の痕跡を探すあたりがくどく感じられ、はっきりとした容疑者がいないまま、ものがたりはダラダラと進んでいるようにも感じられた。完全な密室のように不可能な事件ではない。物理的に難しいというだけであって、別の容疑者が登場すればそれであっさりと解決してしまう状況だからだ。読者としては別の第三者が犯人などという想像はしないが、何か一つのネタを右へ左へこねくりまわしているように感じられた。

結末間近にはいつもどおりガリレオが驚きの推理をする。しっかりと証拠から論理的に導き出された答えなのだが、突飛な印象は拭い去れない。まさかそんなことが、という思いはあり、ある程度の驚きはあるが、トリックとしての驚きというよりも、そんな答えになった状況に驚いてしまう。ガリレオが言うように、ある意味完全犯罪なのかもしれない。犯人がもしあっさりと認めなかったとしたら、証拠固めができずに立件することは難しかっただろう。それほどパーフェクトな犯罪だ。にもかかわらず、大きな驚きがなかったのはなぜだろうか。それは、結局、毒物混入という根本の答えは最初にでていたからだろう。

ある意味、完成された完全犯罪なのだろう。




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