サウスバウンド 上  


 2011.3.15  それでもご飯三杯おかわり 【サウスバウンド 上】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

少年時代の淡い思い出を思い出しつつ、ちょっとホロリとする感動作。父親が元過激派で、母親は実の親とは勘当状態。そんな環境で育つ二郎は、小学生なりに様々な悩みに直面する。小学生らしい悩みもあれば、かなり切実で深刻な悩みもある。親が破天荒であればあるほど、子供は常識人となるのだろう。本作では二郎にふりかかる様々な難題を、右往左往しながら乗り越えていく二郎の成長物語と言ってもいいだろう。不良中学生との対決や、居候の男が殺人事件を引き起こすなど、とんでもない環境であることは間違いない。小学生には辛い悩みのはずが、それでも二郎は元気に学校へ行き、ご飯を三杯おかわりする。このなんともいえない妙な明るさと前向き加減は元気がでてくる。

■ストーリー

小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わってるという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうではないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが…。

■感想
小学生の二郎が主役の本作。元過激派の父親というのが一番曲者なのだろうが、ある面では良い父親となっている。言っていることはめちゃくちゃだが、頼りがいのある父親と言えるかもしれない。実の祖父母の存在を知らずに育った二郎の環境は、とてもまともとはいえない。それでも妹と二人元気に生活し、良い友達に囲まれた幸せな二郎を感じることができる。かと思えば、不良中学生に目をつけられ、悩み苦しんだりもする。小学生は小学生なりの大きな悩みがある。すでに忘れかけた小学生時代の思い出をかすかに思い出しながら、懐かしさにひたってしまった。

身勝手な大人たちに翻弄されつつも、元気に生活する二郎。金持ちの祖父母の存在に気付き、セレブな生活のいとこたちとのレベルの違いに苦しむ二郎。大人にはない奔放さと、小学生ならではの繊細さが、作中からこれでもかと伝わってきた。文中にははっきりと明記されていないが、二郎の微妙な心理が行間から伝わってきたような気がした。年齢は違えど、小学生の二郎にガッツリ感情移入してしまったのは、自分が少年の気持ちで本作を読んでいた証拠だろう。

突然、西表島に引っ越すと言う父親。下巻からは西表島での生活がメインとなるのだろう。突然、友達と別れることになった二郎の心境は、はっきりと悲しみを表現されているわけではないが、伝わってきた。友達との最後の別れのシーンであっても、小学生らしいあっさりとしたものだが、そこには表にでない悲しみや寂しさというのが読み取れた。大人ほどセンチにならないのは、子供には過去よりも膨大な未来が待っているからだという記述には思わず唸ってしまった。確かに、小学生にとってかけがえのない時代であっても、その後には何倍も長い年月が待っているからだろう。

ヘンテコな家族ではあるが、ホロリとさせられる場面がある。

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