サウスバウンド 下  


 2011.3.17  大自然と共に生きる 【サウスバウンド 下】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

上巻とはまた違った趣の作品。破天荒な父親にふりまわされる少年という図式は変わらないが、舞台が異なっている。小学生らしい別れを経験した後は、電気もきてないような西表島の奥地へと移り住むことになる二郎。人間関係が様変わりし、電気や水道がないかわりに人々の暖かさに触れ、自然の中で生活するということを学ぶ。父親である一郎が強烈なのもあるが、自然の中でたくましく働く父親というのはすばらしい。とんでもない父親のように思えるが、肝心なことはすべて二郎本人に決めさせている。後半ではリゾート開発会社とのいざこざがあり、自然を守るという意識とは違うが、強い者へ弱い者たちが協力して抗うシーンは涙を誘う。こんな家族はありえないのだろうが、なぜか憧れてしまう。

■ストーリー

元過激派の父は、どうやら国が嫌いらしい。税金など払わない、無理して学校に行く必要なんかないとかよく言っている。そんな父の考えなのか、僕たち家族は東京の家を捨てて、南の島に移住することになってしまった。行き着いた先は沖縄の西表島。案の定、父はここでも大騒動をひき起こして…。

■感想
元過激派の父親にふりまわされながら、少年らしい悩みや苦しみを感じ、たくましく過ごした上巻。ホロリとくる別れを経験し、やってきたのは遠く離れた西表島。下巻ではこの西表島での生活がメインに描かれている。上巻で積み重なったとんでもない父親という印象は、本作でも変わることはない。しかし、そこに父親らしいたくましさが追加されている。自給自足の生活に、地元の純朴な友達たち。そして、個人の利益を一切考えない島の人々。誰もが憧れるようなスローライフではないが、ある意味上巻からの一郎の主張がそのまま表現されたような生活だ。

自然の中での二郎の生活において、文明に対して若干未練を残していることが面白い。妹はさらに往生際が悪い。そこへ文明社会に毒されていたはずの姉がやってきてから物語は、自然の生活へ溶け込んでしまう。そこで生活することが当たり前となり、次なる障害が発生することになる。やはり父親の破天荒ぶりを表現するのが本作のポイントなのだろう。リゾート開発会社と対立し、そこで警察やヘンテコな外人を含めて大立ち回りまで起こしてしまう。そこでの二郎の心境というのは、悲しみや怒りよりも、ワクワク感が表現されているような気がした。

ラストは上巻と同様、少しホロリとくる別れのはずが、なぜか明るい終わり方となっている。よく考えればめちゃくちゃなことで、二郎の両親はとんでもないキャラクターのはずが、それらを感じさせない勢いがある。何か一つのことを突き詰めると、他の些細なことはどうでもよくなってしまうのだろうか。島で元気に生活する二郎を考えると、完全に理想とはいえないが、本作の両親のような行動もありなのかもしれないと思わせるパワーがある。都会で暮らすと「こんな父親は嫌だ」と思っていても、場所が変われば「良い父親」に様変わりするのだろうか。

上巻とはまったく違う、別作品のような印象だ。




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