桜ほうさら  


 2013.7.28     江戸深川の人情物語 【桜ほうさら】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

江戸の深川で巻き起こる騒動。剣の腕はイマイチだが、心優しい男、古橋笙之介。父親の賄賂騒動により、江戸へやってきた笙之介が事件に巻き込まれる。物語は、父親の疑いを晴らすことがメインとなる。他人が書いた文字そっくりに文字を書ける男を探す物語。長屋での生活における助け合いや、笙之介のほのかな恋物語など盛りだくさんだ。

作者の江戸時代の物語は、なんとも言えない趣がある。長屋の住人同士、助け合って生活する描写は思わず心がほっこりする。貧乏ながらも、その日その日を必死に生きる者たち。たまに豪華な料理を食べることが、この上ない幸せだと感じる者たち。とんでもない悪人もいれば、悪人にされた者もいる。最後のミステリアスな展開に驚かされる。

■ストーリー

舞台は江戸深川。主人公は、22歳の古橋笙之介。上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋家の次男坊。大好きだった父が賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の身となったため、江戸へやって来た笙之介は、父の汚名をそそぎたい、という思いを胸に秘め、深川の富勘長屋に住み、写本の仕事で生計をたてながら事件の真相究明にあたる。父の自刃には搗根藩の御家騒動がからんでいた。

■感想
深川の長屋に住む笙之介。わけありで江戸へやってきた笙之介だが、父親の汚名をはらすため、ある男を探す。まず、笙之介が江戸へやってきた理由が非常にディープだ。父親の賄賂疑惑、母親の強引な行動。兄の出世欲。それらを受け、おとなしい笙之介は、ひとり江戸へと送り出される。

人が書いた文字とそっくり同じ文字を書く男を探す笙之介だが、その合間に様々な出来事が起こる。笙之介が周りにどれだけ好かれているかや、笙之介が何が得意で何が苦手かがよくわかる。作者の時代物が好きな人にはたまらない雰囲気だ。

笙之介が住む長屋の住人たちとの交流も面白い。貧乏ながら、必死に生きる人々。その日食べる物にも困る状況ながら必死に働き、ちょっとした幸せを謳歌する。笙之介が長屋の住人から好かれており、また、女たちからは、好意を注がれ戸惑うあたりもまた良い。

朴念仁たるイメージそのままに、笙之介は女たちのアピールに気づかないふりをする。大食い大会や、行き倒れた侍の騒動など、メインのストーリーとは直接関係のない出来事を通して、深川で生活する笙之介の人柄が表現されている。

笙之介はある女性に恋をする。それも普通の女性ではなく、顔と体に赤い皮膚病を持つ女だ。二人の淡い恋というのは、江戸時代ならではの、なんとも奥ゆかしい付き合いに思わず笑顔になってしまう。ふたりっきりで、ひとつの部屋に入る場合は、障子を閉めることは厳禁。

現代では考えられないほどプラトニックな付き合いだが、二人は会って話をするだけで幸せだという思いがある。なんだかこんな物語を読まされると、現代のドロドロとした恋愛が、ひどく汚らしい物に見えてしまう。時代の風潮と笙之介の人柄が、読者に好感を与えているのだろう。

人の文字をそっくりそのまま描く男は、強烈なインパクトがある。




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