坂の下の湖  


 2013.11.13    個人の楽しみを追求すべし 【坂の下の湖】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

R25連載のエッセイ集。第3弾なので、中身はどんな感じになるかだいたい想像できた。時事問題をベースとして、若者の恋愛離れを嘆き、積極的な恋愛をすすめる。今回はリーマンショック後なので、デフレ社会というのがベースにある。そのため、草食系男子が、デフレ時代を生き残るために実は最適なのではないか?という新たな提言までしている。と言いつつも、少子化対策には、若者が恋愛し結婚するしかないという流れはいつもどおりだ。

景気が悪く暗くなりがちな世の中で、どのようにして明るく楽しく過ごすか。作者は社会がどんなに暗くなろうと、個人単位で明るく楽しく生きられれば良いじゃないかとういスタンスだ。それはある意味で正しい。が、社会の不景気は結局、個人にまで波及するのが現実なのだろう。

■ストーリー

世の中がどんなに暗くても、自分の心まで暗くしてはいけない。自分サイズの幸せをみつけて、無理せず歩いていこう。若い世代に向けてエールを送るエッセイ集。

■感想
R25だけに、二十代中盤をターゲットにしている。今の時代の二十代がどのような状況にあるのかが良くわかる。就職難で給料は上がらず、仕事量は増える。社会が不況であれば、その年に就職する人は、自分が希望する職につくことができない。逆に少しでも景気が盛り返せば、反動で売り手市場になる。

本人の能力よりも、運不運の比重が高いのが現実だ。だとすると、今の若者たちは不運なのだろう。社会が不景気でも、個人単位では愉しいことをやるべきだと主張する作者。確かにその通りだが、言われてすぐできるのならば、これほど少子化が問題になっていないだろう。

出会いがないことについての嘆きに対するエッセイもある。作者の出す答えは、ごく当たり前のことだ。すでに知り合っている人をもう一度見直すか、新たな出会いがありそうな場所に積極的に繰り出すか。草食系男子がそんなことをするとは思えない。女子もそれほど劇的に積極的になるはずもない。だとすれば、昔に戻るしかない。

たいして好きでもない人と半ば無理やり結婚させられるお見合い。100点満点は無理でもせめて50点あれば結婚する。完全なる妥協だが、今の時代、それも必要なのだろう。皆、理想が高すぎるという作者の主張はもっともなことだ。

金も時間もない、恋人もいない。となると、何を楽しみに生きていくのか。偶然にも40年前の若者のルポルタージュを読んだのだが、そのころも、今と変わらず閉塞感はあった。ただ、金と時間がない中でも、無理やり個人の楽しみを追究しようという勢いがある。

今は、将来の不安から貯金する。当然といえば当然の結果なのかもしれないが、なんだかさみしくなる。本作を読んだ若者の何割かは、もしかしたら町に繰り出すかもしれない。そして、勢いあまってナンパなんかをしてしまうかもしれない。少しの後押しを待っている人には良いエッセイ集だ。

作者のイメージそのままに、どんな状況だろうと恋愛を楽しむべき、という主張は納得させられるパワーがある。




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