龍臥亭事件 下  


 2013.9.4     30人殺しの真実 【龍臥亭事件 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻では龍臥亭の複雑さばかりが印象に残り、肝心の事件や人間関係よりも、現実感のない舞台に違和感ばかりもっていた。それが一転、下巻では事件のトリックはさておき、強烈なインパクトを残す部分がある。それは津山の30人殺害事件の詳細を描いた部分だ。作中で言われているように、犯人はとんでもない化け物だったのか。それとも別の理由があったのか。

過去の事件の描写と、それに繋がる現在の事件。トリックの不思議さよりも、動機が衝撃的だ。龍臥亭事件の真犯人についても、まさかの人物だが、それが判明する前に最高潮の盛り上がりは終わっている。”村の業”や”因縁”を口にしたがらない村人たちの秘密が明らかになったとき、思わず、この龍臥亭事件に納得してしまう。

■ストーリー

石岡が遭遇した、岡山県の村での大量連続殺人事件の犠牲者はさらに増え、村は地獄絵の様相に…。村人の言う“村の業”とか“因縁”とは何か?言い知れぬ恐怖が支配する深夜、伝説の男の亡霊が現われた…!?彼による30人殺しとは?現代に甦る昭和史の残忍な悪意とは?御手洗潔の友人・石岡和己が解き明かす五十数年に及ぶ壮大な謎とトリック!傑作巨編。

■感想
龍臥亭でおきた連続殺人事件。確かに不可解な状況だが、下巻の中盤までで、何かを模倣した事件だとわかると、そこから物語は一気に進んでいく。石岡が過去の事件を探るにつれ、衝撃的な事実が明らかとなる。極め付けは30人殺しだ。

なぜ、男はそのような凶行へ走ったのか。語られる内容は強烈すぎる。単純に悪魔のような男だから、のひとことではすまされない流れがある。村の言い伝えは、実は間違っていた。真実が語られるとき、龍臥亭の事件へとつながる何かが見えてきたのは確かだ。

上巻の段階では、御手洗が颯爽と登場し、すべてを解決するものと思っていたが、そうはならなかった。警察たちも、ただ御手洗にやり込められるためだけの存在かと思いきやそうではない。石岡がひとりで調査し、過去の事件を調べあげ、犯人にまでたどりつく。

鮮やかな流れや、胸がすっとするような展開ではない。地味にじっくりと調査した結果、偶然の要素があるにせよ、たどりついた答え。石岡が自分を卑下しながらも、ひとりで事件を解決した初めての作品だ。

龍臥亭における連続殺人事件のトリックは、なんだか拍子抜けしてしまう。30人殺しの強烈なインパクトに比べると、若干テンションが下がってしまう。過去の因縁を引きずるがゆえに起こった事件なだけに、このような流れになるのは仕方がない。

作者の津山30人殺しについての、あくなき執念というか、作者独自の解釈を広く伝えるために作られた作品のように感じられた。目的のための準備が非常に長大であるため、作者の執念の強さを感じずにはいられない。

御手洗が登場しないが、吉敷シリーズとのつながりが微かにうかがえるあたり、作者のファンにはうれしい部分だ。




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