龍臥亭事件 上  


 2013.8.23     イメージしにくい龍臥亭 【龍臥亭事件 上】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

御手洗潔シリーズだが、上巻ではまったく御手洗潔は登場しない。相棒の石岡がひょんなことから田舎の山奥へ向かうことになり、龍臥亭という奇怪な旅館で連続殺人事件に遭遇する。まず、龍臥亭というのが頭の中にイメージしにくい。非現実的というか、龍を模倣した古い旅館のようだが、奇怪すぎる。発生する連続殺人事件も奇妙だ。

密室、もしくは密室状態にありながら、銃で撃たれて死ぬ。おそらく本当に銃で撃たれたなんてことはなく、そのあたりがトリックなのだろうが、登場人物たちの奇妙さが恐ろしさを増幅させている。どの登場人物も怪しく見えてしまう。石岡と一番親しいはずの里美ですら、何か裏があるように見えてしまう。

■ストーリー

御手洗潔が日本を去って1年半。彼の友人で推理作家の石岡は、突然訪ねてきた二宮という女性の頼みで、岡山県まで悪霊祓いに出かけた。2人は霊の導くままに、寂しい駅に降り立ち、山中分け入り、龍臥亭という奇怪な旅館に辿り着く。そこで石岡は、世にもおぞましい、大量連続殺人事件に遭遇した。推理界の奇才が、渾身の筆致で描く本格ミステリー超大作。

■感想
石岡ひとりで事件に遭遇し、下巻で御手洗が鮮やかに事件を解決するのだろう。パターン的には従来通り。ただ、舞台となる龍臥亭が、とんでもなく非現実的で頭の中にイメージしにくい。山奥の元旅館。琴の演奏に、零戦、そして、古い銃弾。さらには、作者の作品によく登場する三十人殺しの狂人。

恐ろしげな雰囲気作りは完成している。登場人物たちも癖のある者ばかり。何か因縁めいたものを匂わせつつ、事件をけむにまく。長大な物語の前ふりとしては、これ以上ないほど濃密な仕上がりとなっている。

龍の頭や尻尾をイメージした風変りな旅館。これだけで、この建物に何かトリックがあるのではないかと想像してしまう。過去の因縁にとらわれた家系。龍臥亭に宿泊する関係者以外にも、事の発端となった二宮という女や、ろくに調べもせず虚勢ばかりはる警察たちも、重要な要素なのだろう。

警察たちなどは、御手洗にやり込められるためだけに、上巻では必要以上にいばっているとしか思えない描かれ方だ。二宮や石岡と急接近する里美などが、物語のポイントなのだろうか。四十を超えたおじさんが女子高生に翻弄されるのもまた面白い。

複雑怪奇で、トリックがまったく想像できない本作。そもそもの舞台が奇妙すぎて、何が起きてもおかしくない。理路整然としたミステリーというよりは、奇怪さで読者を煙に巻くといった感じだろうか。強烈なインパクトがあるのは、御手洗が登場する下巻からだろう。

上巻では下地を作り、下巻ですべてを回収する。上巻で不可解な状況であればあるほど、御手洗の解決編に興味がわいてくる。多少イメージしにくいのはあるが、龍臥亭の特殊さというのは、物語を不可解なものにするにはうってつけの舞台だ。

龍臥亭の謎がどのようにして解かれるのか、気になるところだ。




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