龍神の雨  


 2011.10.3  思い込みによる不幸 【龍神の雨】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者らしい仕掛けにやられた。二組の家族の子供たちが、ある事件に巻き込まれる。両親を亡くし、血のつながりがない親と暮らすという共通点があるだけで、何の接点はないはずだったのだが…。人は思い込みによってどのようにも行動してしまう。人を疑ったりきずつけたり。暴力をふるう血の繋がらない父親をどうにかしようと考えるくだりは、青の炎に近いかもしれない。完全犯罪をもくろむあたりも同じだ。ただ結果として、悪い方向へと流れていき、心の奥底に深い闇を抱えることになる。ある一つのパターンを連想させ、それを補完するような伏線を描く。読者は犯人を想像し、頭の中では1つのストーリーを作り上げるのだが、それがことごとく崩された。さすがとしか言いようがない。

■ストーリー

人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。

■感想
決して明るい話ではない。血のつながった両親を亡くし、血のつながらない親と暮らす子どもたち。二組の家族は、どちらも親子関係はギクシャクし、かわりに兄弟の関係は強固なものとなる。暴力をふるう父親に怒りを感じる蓮と、身の危険を感じ始めた楓。母親に反抗し続ける辰也と、それを心配する圭介。このチグハグな二組の家族の不幸は、ちょっとした誤解から始まっていく。もし、最初の誤解がなかったとしたら…。なんてことを考えずにはいられないほど、悲しい物語だ。

ある事件が起こり、それをきっかけとして蓮と楓は追いつめられていく。楓と辰也の微かなつながりから、二組の兄弟はとんでもない出来事に巻き込まれていく。物語は、ある1つの方向へと流れていく。血のつながらない親子関係に悩み、後悔し続ける中で、どうにも身動きが取れなくなる。物語の流れとして、犯人なり黒幕なりは簡単に連想できる。多数の伏線からある1つの結論以外はありえないという状態となる。ただ、そんな流れであれば特別面白いというわけでもなく、暗く悲しい物語なのだなぁと思うだけだ。

終盤になると、物語は一気に動き出す。蓮の友達が、蓮の父親のことについて語り、そこから動き出す新たな流れに衝撃を受けた。父親はダメ人間ではないかもしれない。すべては誤解から始まったことかもしれない。この部分で二組の子どもたちの悲しい誤解というのが強調されている。真犯人的な存在であっても、まさかこの人物が、という思いもある。セオリーどおりなのかもしれないが、想像外の人物だった。ただ、回収できていない謎も残っている。楓の体操服のくだりにどんな意味があったのかは、最後まで謎だった。

作者の仕掛けには毎回驚かされる。





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