六の宮の姫君  


 2011.10.24  芥川好きはどうぞ 【六の宮の姫君】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

芥川龍之介の「六の宮の姫君」をテーマとした作品。この段階でピンとこない人は、やめた方がいいかもしれない。女子大生シリーズは主人公が本好きということもあり、マニアックな本の知識が登場してくる。ただ、それは日常のちょっとした事件の箸休め的な感じで登場するので、本編にはそこまで影響はない。しかし、本作に限っては最初から最後まで芥川龍之介と菊池寛について語られている。正直、このあたりの知識はさわり程度しかないので、ほとんど意味がわからない。主人公の「私」が卒論に力を入れ、芥川について熱く語るのは、そのまま作者の気持ちを代弁しているようだ。読み終わるとうっすら、芥川龍之介と菊池寛について詳しくなった気分になれる。

■ストーリー

最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」―王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、「私」の探偵が始まった…。

■感想
女子大生シリーズは本の知識を試されているようだ。今までのシリーズでも、数々の本のタイトルとその内容について語られている。それらについて、ほとんどハテナマークばかりが浮かんでいたが、物語にはそれほど影響はなかった。しかし、本作だけはそれなりの知識がないとまったくついていけない可能性がある。芥川龍之介は代表作の内容を上っ面だけ知っている程度で、菊池寛にいたってはその存在すらほとんど意識したことはなかった。そんな状態で本作を読むのは無謀だったのかもしれない。芥川龍之介の作品タイトルが次々と登場するが、ほとんど初めて見るものばかりだった。

「私」が卒論として選んだのは芥川龍之介だ。卒論のテーマとして調査する過程で、「六の宮の姫君」の秘密について探ることになる。日常のちょっとした謎を解き明かす本シリーズであったが、いつもの円紫はほとんど活躍しない。いつもどおりすべてをお見通しだという雰囲気はあるが、存在感はない。ほぼ「私」が調査し、その結果、頭の中で考えをまとめるということがツラツラと続いているだけだ。読み方を間違えるとちょっとした謎本となってしまう。芥川龍之介の謎というタイトルであってもおかしくはない。

ここまでマニアックな内容にして、一般人はついてこれるのだろうか。芥川龍之介のコアなファンや菊池寛のファン向けだけでは辛いだろう。同じくマニアックな作品には京極夏彦の京極堂シリーズがあるが、それは根本にはミステリーとしての謎がある。本作は謎らしい謎がなく、「六の宮の姫君」の書かれたルーツを探るという感じだ。もしかしたら「六の宮の姫君」自体が謎に満ち溢れているのかもしれないが、一般人にはそんなことわかるはずもない。シリーズとしては明らかに異色な作品だろう。

この作品がどれほど一般人に受け入れられたのか、気になるところだ。




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