送り火  


 2011.6.6  世代的にぴったりくる 【送り火】

                      評価:3
重松清ランキング

■ヒトコト感想

富士見線沿線で起こる不思議な出来事の物語。作者にしてはめずらしく、超常現象の要素が加わっている。いつものごとく、悩み苦しむ主人公にちょっとした変化が起こる。それは古びたアパートに住みつく怪しげな老婆だったり、ホームで座り続ける誰にも見えないサラリーマンだったり。ただ、その根本には苦しみや悲しみを解決するとまではいかないが、和らげてくれるような気づきがある。ホラーというほど、恐ろしいわけではなく、心が温かくなる不思議な物語だ。それ以外にも、年老いた親を持つ子供の思いや、義理の両親との関係に悩む妻、そして、妻との関係に悩む夫など、中年なら誰もが何か思い当たる部分がありそうな短編ばかりだ。世代的にど真ん中の作品のため、強烈に心に残る。

■ストーリー

鉄道が街をつくり、街に人生が降り積もる。黙々と走る通勤電車が運ぶものは、人々の喜びと哀しみ、そして…。街と人が織りなす、不気味なのにあたたかな、アーバン・ホラー作品集。「昔の親は、家族の幸せを思うとき、何故か自分自身は勘定に入ってなかったんだよねえ…」。女手ひとつで娘を育てた母は言う。そんな母の苦労を知りつつ反発する娘が、かつて家族で行った遊園地で若かりし日の両親に出会う。大切なひとを思い、懸命に生きる人びとのありふれた風景。

■感想
様々なジャンルが入り混じってはいるが、作者にしては珍しいホラータッチの作品が印象に残っている。とくに「ハードラック・ウーマン」などは、何か教訓めいたことや、悩みに対してのアドバイス的なものがあるわけではなく、単純に恐ろしい。富士見線にまつわるホラーというと、どうしても飛び込みや、列車関係の事故を連想してしまい、変にリアルに感じてしまう。悲しみというよりも、厳しい社会の中で戦うフリーの編集者が見た恐ろしい現象とでも言うのだろうか。今までの作者のタッチとは明らかに違う。

いつもの作者らしい作品も、もちろんある。特に表題作である「送り火」などは、子を持つ親として、またマイホームなりマンションなりを買うだとか、不景気の今、先行きが見えない不安などを的確についている。そのため、作中の登場人物たちが話す言葉がやかに心に響く。昔の親は、自分たちが楽しむのではなく、家族が楽しんでいるのを見るのが好きだ。この言葉は、確かに思い起こせば自分の両親もそうだったのかもしれないと感じてしまう。今は、親子そろって楽しむのが定番だが、昔の親は違ったのだろうか。そう考えると、親には感謝せずにはいられない。

「かげぜん」などは子供を持つ親にとっては、なんといっていいのかわからない。辛い状況であるのは間違いないし、思わず自分がそうなったらと考えてしまう。本作では年老いた親を持つ子供と、子供を持つ親というように、パターン化されているが、どちらにも当てはまる自分としては、自分のこととダブらせて考えてしまう。そのため、登場人物と同じように悩み苦しみ、悲しんだりもした。そこまで感情移入できるのは、リアリティのある状況設定と、登場人物たちが言葉にしない心の声が、まさに自分の正直な声と一致するからだろう。

作者の作品には毎回激しく感情移入してしまう。世代的にぴったりと当てはまるからだろう。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp