2013.3.28 悲惨な状況から一転 【ノエル a story of stories】
評価:3
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■ヒトコト感想
子供向けの物語に、並々ならぬこだわりがある作者らしい作品だ。短編として、物語内物語で語られる内容が、現実に変化をもたらす。うっすらとした短編同士のつながりが、最後にほっこりとした結末を導いてくれる。それぞれの短編は、あるパターンの流れになっている。
どうしようもない悲惨な状況におちいり、残酷な結末を迎えると思いきや、実はハッピーエンドだったという流れだ。読者を騙すテクニックは相変わらずすばらしい。残酷な状況をサラリと描く作者なだけに、シリアスな物語だと読者は騙されてしまう。騙されたと気づいたとき、なんともいえない安心した気分になる。次の短編では、幸せになった状況が微かに伝わってくるのも良い。
■ストーリー
物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。
■感想
「光の箱」は、まさにいじめ問題の強烈な思い出と、過去の思い込みから不幸な結末を連想させる物語だ。イジメから自分を守る中学生の男。淡い恋心を抱く女。二人は幸せになるはずだったが…。不幸な別れかたをした二人が、単純に同窓会を機に再開するという物語かと思いきや…。
強烈なのは、同窓会の場で久しぶりに再会できると思った瞬間、男がホテルのロビーで事故に合う場面だ。なぜ?という不幸の連鎖を呪う気持ちが強くなるが、物語を読んでいくと、作者の仕掛けに騙されたと気づく。
「暗がりの子供」も、まさに同じパターンだ。妹の誕生をよろこばない小学生の女の子がいた。祖母が入院し、行き場をなくした女の子は…。生まれてくる妹に母親をとられると思うのは、子供の心理としてよくわかる。物語の世界へ逃げ込んだ結果、とんでもない行動に出るのだが…。
物語内物語で女の子に語りかける少女が、悪魔のように思えてくる。作者の状況描写だけ読むと、不幸な出来事が起こったとしか思えない。しかし、それは作者のテクニックによりもたらされた状況だ。なんでもないとわかったときの安心感は、すさまじいものがある。
物語のつながりを意識するのは、次の短編へうつってからだ。前の短編で登場したキャラクターたちが、幸せな姿を見せてくれる。となると、あの状況から様変わりし、あのキャラクターたちのその後を読めるのは、なんだか幸せな気分になった。
ラストの物語も、子供向けの物語に対するこだわりというのを感じずにはいられない。作者の「プロムナード」では、素人時代に描いた絵本が収録されている。絵本についてのこだわりが、本作を成立させているのだろう。作中の物語は、かなり深い意味があるように読み取れた。
連作短編としてのツボがしっかりとおさえられたすばらしい作品だ。
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