西巷説百物語  


 2012.10.26    舞台は大阪へ 【西巷説百物語】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

巷説百物語シリーズの大阪版。又市はほとんど登場せず、代わりに林蔵が仕掛ける。「これでしまいの金比羅さんや」というのが最後の決めゼリフとなる。基本的には、依頼によりなんらかの事件の真相をさぐるという流れなのだが、仕掛けが凝っている。奇妙な現象が起こり、それが亡者の仕業として、ターゲットの心の奥底にある真実を吐き出させる。パターン的には同じなので、大きな驚きはない。ただ、あやかしの仕業と思わせる流れがすばらしい。口先三寸で相手を騙すというのではなく、仕掛けをつくり、仲間に化けさせ、相手をその気にさせる。なぜそんな凄惨な事件が起きたのかまで、後日談として語られている。似ても似つかないが、最後にはしっかり解決するという水戸黄門的な安心感がある。

■ストーリー

どうにもならぬことをどうにかする裏商売、舞台は江戸から大坂へ。仕掛けるは御行の又市が朋輩、靄船の林蔵。帳屋の看板を掲げる優男が絵草紙版元“一文字屋”から請け負うは、生者を彼岸に導く狂言仕事。口先三寸の嘘船に乗り、気づかぬうちに絡めて取られ、通らぬ筋が一本通る。踊る亡者を前にして、露わになるのは真情か―いくつかの巷説を経、林蔵が大坂を離れた十六年前の「失敗り」、その真相が明らかになる。これで終いの金比羅さんや

■感想
シリーズの中では、わりとおとなしめというか、巨大な悪と戦うといった雰囲気はない。又市の代わりとなる林蔵が、依頼を受け事件を解決する。ただ、よくある探偵モノと違うのは、調査の過程がほとんどしめされないということだ。何か不思議なことが起こる。その傍らには林蔵がいる。林蔵が話を聞きながら、すべての謎を対象者本人から告白させる。誘導尋問というのか、仕掛けをつくり、亡者が生き返ったように思わせながら、真実を語らせる。ダイナミックな展開はないのだが、さながら取調室の刑事のように、ジワジワと相手を追いつめていくようだ。

最後の「野狐」以外は、すべて林蔵たちが仕掛けている。特に印象的なのは、「鍛冶がカカ」だ。嫁が喜ぶことはなんでもする鍛冶屋。愛してやまない嫁が、ある日、ぱたりと話さなくなった。狼がおばあさんに化ける逸話を披露し、嫁が何者かに化けていると思わせながら…。なんともいえない気持ちになる作品だ。いったそこで何が起こっているのか。京極堂シリーズにも通じるような、真実を最後の最後まで引っ張る引きの強さがすばらしい。鍛冶屋は、嫁が嫌がることはすべて排除する。その全てというのが…。強烈なインパクトだ。

「野狐」はシリーズとして紐付けるために追加されたように思えた。ここで初めて又市が登場し、林蔵との関係が明かされる。きな臭さが漂う話ではあるが、大きな衝撃はない。この話がなければ、巷説百物語シリーズの色は薄まってしまう。妖怪をモチーフとした話に、多少の無理矢理感はあるが、それでも作者の魅力が溢れている。登場人物たちが関西弁をあやつるということを抜きにすれば、いつもの雰囲気と大きな違いはないだけに、シリーズのファンならば間違いなく楽しめることだろう。

個別の話でいうと、かなり印象深いものが多いのも、本作の特徴かもしれない。




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