猫と針  


 2011.9.5  シナリオの難しさ 【猫と針】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者の舞台向けのシナリオ。ミステリー作家らしく、伏線の張り方がすばらしい。先が気になる流れになっており、誰が犯人かという想像力はどんどん盛り上がってくる。ただ、基本はシナリオなので、ほぼセリフですべてを想像しなければならない。人物の違いもセリフだけ読むのではなく、誰のセリフかというのを理解して読まなければならない。そのため、物語の全体像が頭に入りにくくなる可能性がある。脚本家出身の小説家が描いた脚本というのを読んだとことがあるが、それは読みやすかった。やはり舞台向けとなると、ドラマの脚本とは違うのだろう。物語としては面白いと思うが、舞台の役者の動きまでも頭の中で自由に想像してしまうので、ちょっと物語に入り込みずらいかもしれない。

■ストーリー

高校時代の友人が亡くなり、映画研究会の同窓生男女5人が葬式帰りに集まった。小宴がはじまり、四方山話に花が咲くが、どこかぎこちない面々。誰かが席を外すと、残りの仲間は、憶測をめぐらし不在の人物について語り合う。やがて話題は、高校時代の不可解な事件へと及んだ…。15年前の事件の真相とは?そしてこの宴の本当の目的は?

■感想
ミステリーとしての仕掛けはさすがだ。葬式帰りに集まるという冒頭と、死者に対してあれこれ思い出話を語りながら、そこからミステリアスな事件の真相が明らかとなる。同級生たちが集められた原因も、何か裏があるのかと思わせながら、物語は進む。読者は誰が真の黒幕で、すべてを裏で操っているのかが気になってくる。15年前の出来事に対しての復讐なんてのはありがちだが、ミステリーとしては扱いやすいだろう。思い出話が続くと、次々と新たな真実が見えてくる。事件の肝を小出しにし、注目を集める手法はすばらしい。

本作をシナリオとした舞台がどのような評価を受けたのかわからない。シナリオとしては、中盤までは非常にすばらしく、誰がひた隠しにしてきた衝撃的な真実を明かすのかということばかりが気になっていた。合間には、外は大風が吹いていたというセリフと、髪の毛がボサボサで戻ってきたなどという伏線をうまく使ったりと、舞台であれば、さらにミステリアスな雰囲気を楽しめたことだろう。シナリオだとセリフのみでその表情はよくわからない。どういった意味の言葉なのかを読み取るのは、読者の想像力にまかせるしかない。

ラストではしっかりとすべてが明らかとなる。ただ、そこに衝撃があるわけではない。やはり、シナリオはそれ単体で読むと、微妙かもしれない。特に本作のように、ほぼすべてがセリフで終わっているような作品では、間違いなく役者の演技が必須なのだろう。言葉の応酬で事件の真相が徐々に見えてくるのはすばらしいが、そこから先、特に結末に至るまでは、物語を盛り上げるためのそれなりの演出が必要だろう。シナリオではやけにあっさりと結末へ向かい、そのままサラリと終わってしまったという印象しかない。

シナリオだけだと、物語の進みは速いが、深みはなくなってしまう。




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