謎物語-あるいは物語の謎  


 2012.1.4  ミステリ作家は謎に飢えている 【謎物語-あるいは物語の謎】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者が心からミステリ好きだということがわかるエッセイだ。日常のちょっとした疑問や手品にまでミステリを当てはめる。ミステリ作家というのは、常に新しいトリックはないかとアンテナをはりながら生活しているのだろう。新しいトリックはもはや存在しないと言いながら、あくなき探究心で斬新なトリックを探し続ける。一つの謎とその解決という、ただそれだけでミステリと同じだと言い切ってしまう作者のミステリに対する熱量がすばらしい。本格推理の魅力が必ずしもトリックだけにあるのではなく、その周辺を含めて評価している。と言いながら、トリックが重要で他作品のトリックに似たようなものがあれば、知らないこととはいえ、激しい自己嫌悪にさいなまれる。ミステリ作家というのは心からトリックに誇りを持っているのだろう。

■ストーリー

幼い頃から親しんできた物語。そこでは、空飛ぶものにも、水を潜るものにも、植物さえにも、なることが出来る。とりわけ謎物語が好きだと言う著者が、落語、手品、夢の話といった日常の話題を交えながら、謎を解くことの楽しさ、本格推理小説の魅力を語ったエッセイ集。

■感想
ミステリ作家というのは、日常のすべてを謎に結びつけるものなのだろうか。謎に関するエッセイなのだが、これぞミステリマニアだというくらいに、濃い謎の話もある。エッセイとして一般人がついてこれるのは日常の謎くらいだ。子供向けの絵本を見て、擬人化された動物と、されないままの動物の違いを子どもはあっさりと理解してしまう。よく考えればおかしいことらしいが、普通はそんなこと考えないだろう。言葉を話すネズミ。一方、普通に言葉を話す犬もいれば、ネズミに飼われている犬はワンワンとしか言わない。確かに奇妙だが、そんなこと気にする人はいないだろう。

ミステリというのは、言い方を変えれば重箱の隅をつつくようなことかもしれない。トリックも、誰もが気付かない画期的なトリックというのは、こじつけのように感じてしまうことがある。ミステリ作家というのは、それらをいかにして不自然なことなく、読者を納得させるかが腕の見せ所だ。肝心なトリックについて、作者は重要だがそれがすべてではないと言っている。ただ、他作品のトリックに似たようなものを発見すると、知らなかったとしても自己嫌悪に陥る。自分に厳しい反面、他人のミステリのトリックについても厳しいのだろうなぁと思わせる記述だ。

謎を解くことも好きな作者。普通の人が読んだとしても、それを謎だとは思わないが、作者はミステリと感じてしまうようだ。ある引用されたエッセイでは、ごく普通のエッセイで少しだけ構成が工夫され、最後の結末にインパクトがでるような流れだった。作者はそれをミステリ的な流れだと言う。手品であっても、不可能なことを目にしたとき、そのタネが何なのかまったく想像ができない。それは作者に言わせれば、不可能殺人のトリックが思いつかないことと同じらしい。だとすれば、ミステリがトリックを知って終わるように、手品もタネを知って終わりたいが、それは無理な話だ。

手品のたぐいはタネを知るとがっかりする。そうさせないのがミステリのすばらしさらしい。




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