2012.2.9 村上春樹風な不思議な世界 【なつのひかり】
評価:3
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■ヒトコト感想
奇妙で不思議な物語。現実と不思議な空間が交じり合い、いつの間にか不思議な世界へと導かれている。どことなく村上春樹風な雰囲気を感じてしまう。主人公であるしおりが経験する奇妙な出来事。何かを暗示しているような出来事かと深読みしたが、最後まで答えはわからなかった。隣の家の子どもが飼うヤドカリが家に紛れ込むことから始まり、兄嫁が突然家出し、いつのまにか兄が二人存在する世界。何かがおかしい世界なのだが、しおりはその世界を受け入れ、兄を探し出そうとする。大事な場面で登場するヤドカリに、何か大きな意味があるのだろうが、それはわからない。最後まで読んでも、すっきりしないままだ。この感覚はまさしく村上春樹だ。
■ストーリー
“「私」は来週21歳。ウェイトレスとバーの歌手という、2つのアルバイトをしている。「年齢こそ三つちがうが双生児のような」兄がいて、兄には、美しい妻と幼い娘、そして50代の愛人がいる…。ある朝、逃げたやどかりを捜して隣の男の子がやって来たときから、奇妙な夏の日々が始まった―。私と兄をめぐって、現実と幻想が交錯、不思議な物語が紡がれて行く。
■感想
しおりが経験するある夏の出来事。冒頭から少しおかしな雰囲気はあるが、まっとうな現代物語かと思った。ごく普通に生活し、ちょっとした変化はあるが、落ち着いたのんびりとした日常を淡々と描く物語かと思いきや、兄嫁の家出から大きく変化していく。ヤドカリが家にまぎれ込むあたりから、なんとなくおかしな雰囲気を感じてはいたが、確信はもてなかった。それが、突然登場する奇妙な比喩や、なんの脈略もなく別の話が登場するあたりは、まさに村上春樹を彷彿とさせる不思議な世界観だ。
しおりがまぎれ込んだ世界は、日常に限りなく近いが、ほんの少し何かがズレている。突然マッチ箱から、まるで携帯電話のように兄から連絡が入る。本当の兄である幸裕と、なぜかもう一人存在している裕幸。このあたりにくると、もはや整合性のある世界ではないと認識できた。そうなってくると、奇妙な世界の秘密は何なのかということと、オチを期待してしまう。物語として不倫や、しおりの狭い人間関係に意味があるように思えるのだが、後半になると、まるでRPGのようにファンタジーあふれるフィールドを動き回る印象しかない。
気づけば最後にはすべてがまるくおさまっている。不思議な世界の中をヤドカリと共に冒険し、いつの間にか兄を連れ戻している。すべての元凶である人物の存在をにおわせつつも、なぜこのようになったかはまったく不明なまま、物語は終わる。ファンタジーの中に、現実世界の男女のちょっとした隠微な雰囲気を入れているのは、作者ならではだろう。今までの作者のイメージからすると、かなり思いきった冒険のように思えるが、世間の評価はどうなのだろうか。現実路線を突っ走る恋愛小説好きには、意味不明で理解できないかもしれない。
作者のこのパターンは新鮮だが、一般受けはしないだろう。
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