ナポレオン狂  


 2012.2.13  笑ゥせぇるすまん風 【ナポレオン狂】

                      評価:3
■ヒトコト感想
相変わらず切れ味するどい短編集だ。「冷蔵庫より愛をこめて」は世にも奇妙な物語風だと感じたが、本作は笑ゥせぇるすまん風だと感じた。最後にブラックなオチがまっている。わかってはいるが、ワクワクしてしまう。オチがすんなり予測できる作品もあれば、あまりに戦慄なラストによりトラウマになりそうな作品もある。人によって好みは分かれるだろうが、どれかは琴線に触れるだろう。シチュエーションや主人公がすべて異なり、バラエティに富んでいるので、飽きることがない。ほどよい長さと、読みやすい文章で万人受けする短編集だ。ストーリーがわりと単純なので、人に説明しやすいというのもポイントかもしれない。おすすめするときに、面白さが相手に伝えやすいというのは重要な要素だ。

■ストーリー

自らナポレオンの生まれ変りと信じ切っている男、はたまたナポレオンの遺品を完璧にそろえたいコレクター。その両者を引き合わせた結果とは?

■感想
「恋は思案の外」と「裏側」は、前半部分でしっかりと謎を提示しながら、ラストでは思わずずっこけるようなオチがまっている。他人の恋に無頓着な男は、最後にその無頓着さで痛い目を見る。チリの大地震で地盤が緩んだ場所に家を買った男は、妻の思わぬ行動に驚く。現実的ではないオチだが、ニヤリと笑えてくる。「そんなバカな」という感覚すらも楽しくなる。それまでの緊迫感あふれる展開はなんだったのかと、一気に気が抜けてしまう。が、読み終わると、思い出してニヤニヤしてしまう作品だろう。

「狂暴なライオン」は、まさに恐怖のオチだ。離婚はしたが、すべてに満たされた女。男抜きの人生を楽しみ、日々充実している。そんな女が男に恋をし、生活が乱されようとしている…。飼いならされたライオンは存在しないというように、女は最後まで自分の信念を貫きとおす。どうしてもできない場合は、やらざるおえない状況を作り上げる。女の行動には恐ろしさしか感じない。ラストのシーンなどは、頭の中に思い描くと恐怖で発狂しそうになる。閉所恐怖症の人は読まない方がいいだろう。強烈な恐ろしさを植えつけられる短編だ。

ラストの「縄」は二転三転する展開が面白い。自殺願望のある女が死に切れないでいたが、縄に追われ死ぬことになる。新人作家である男は、作品が書けないため、同じように縄に追われることになるのだが…。死にたいという願望が作り出す錯覚のたぐいかと思いきや、最後には驚きのオチが待っている。普通に考えると行き着く答えなのだが、作者のマジックなのだろう。そのオチを想像することはなかった。ブラックだが嫌な気がしない。こんな短編があったと、思わず人に話したくなるような短編ばかりだ。

ブラックだが後味が良いというのは重要な要素だろう。




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