冷蔵庫より愛をこめて  


 2012.2.5  これぞ短編の見本 【冷蔵庫より愛をこめて】

                      評価:3
■ヒトコト感想
世にも奇妙な物語のような短編集。ほぼすべてがブラックユーモアであり、最後にあっと驚くような何かがある。短編の中にはかなりインパクトがあり、心に強く残る作品もあれば、ほとんど印象に残らない作品もある。さすがに30年も前の作品なので、時代を感じさせる描写があるが、それでも面白いものは面白い。先がすんなりと予想できるものもあるが、そこにいたるまでの過程が絶妙であれば、面白さは変わらない。夜中、眠る前に読みながらにやりと笑い、短編のひとつを読み終わったらそのまま眠るというのが良いだろう。小難しくもなく、サラリと読める長さなのもよい。短編の内容がバリエーション豊かなのは、読者を飽きさせない要因なのだろう。

■ストーリー

事業に失敗して精神病院に逃げこんだ男が退院してみると、妻はいきいきと働いていた。巨額の借金も返済したという。そんなとき、あの男とめぐり合った。あの男は妻の不貞を告げ、一緒に新商売をやろうと誘う。あの男の正体がやがてあばかれ……。ブラック・ユーモアで絶妙に味つけされた、才筆の出世作。

■感想
印象に残っている作品のひとつに表題作の「冷蔵庫に愛をこめて」がある。ある男が考えた新商売というのが、今では考えられないような商売だが、当時はありえなくもない商売なのだろうか。男のなんとも不思議な考え方と、すんなりと騙される人の良さ。精神を病んだ状態での突飛な行動。貸し冷蔵庫という商売にまず度肝をぬかれた。その前の貸し洗濯機というのもすさまじいが、この発想が信じられない。オチはわかりやすいブラックユーモアだ。冷蔵庫というのをうまく使い、なおかつ新しい商売としてインパクトを与えている。

本作の中で最も印象に残っているのは「幸福通信」だ。ブラックユーモアが多い中で、本作は前向きな気持ちになれるというか、なんだかよくわからない元気がでてくる物語だ。競馬や株など未来を予測したような電話から始まり、すべてが的中する電話を男が信じてしまう。そして、最後の電話の内容は…。オチを読むまでは、ただの不思議な出来事の話で、最後に痛い目を見るたぐいかと思っていたが、大きく違った。サラリーマンとしてどうあるべきか。何事も前向きな気持ちが大事だと思わせ、仕事に悩むサラリーマンを元気づける力のある作品だ。

短編の中には、恐らくそのオチになるだろうと想像し、そのとおりになるのだが、印象深い作品もある。「わたし食べる人」もそのひとつだ。食いしん坊で食べることをやめられない男が、ある薬によって夢の中で食事をし、現実でも満足感を得ることに成功する。男はその夢の食事が忘れられず…。夢の中で食事をし、現実ではみるみる痩せていく。痩せれば女にもモテだすという、あまりにトントン拍子にものごとが進みすぎる展開では、最後に何かがある。予想通りの展開だが、このオチならば、主人公は幸せなまま過ごせたのだろう。

短編の見本のような作品ばかりだ。




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