2011.7.27 林芙美子を知っているか 【ナニカアル】
評価:3
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■ヒトコト感想
林芙美子という人物についてまったく知らなかった。それでも本作を楽しめたのは、単純に女流作家が軍の命令で南方へ行くという行為そのものが興味深いからだろう。戦時中の女流作家の立場や軍との関係。さらには、芙美子の秘められた愛など、作者らしい切り口で林芙美子を描いている。本作を読むことで、芙美子がどんな人物なのか興味がわき、思わずWikipediaで調べてしまうほどだ。本作がどれだけ実在の林芙美子のことを描いているのかわからない。ただ、フィクションだろうが、ノンフィクションだろうが南方での生活や、軍からの監視の目など、一つの物語としての面白さがある。戦争に翻弄された女流作家。作者なりに感じた林芙美子像が本作に描かれている。
■ストーリー
昭和十七年、南方へ命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、そして修羅の夜。波瀾の運命に逆らい、書くことに、愛することに必死で生きた一人の女を描き出す感動巨編の誕生。女は本当に罪深い。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、桐野夏生が渾身の筆で灸り出し、描き尽くした衝撃の長篇小説。
■感想
記念館ができるほどの作家である林芙美子。その存在や作品をまったく知らない者が読んだとしても、十分楽しめる作品だ。どの程度フィクションが交じっているのか、またほぼノンフィクションなのかわからないが、戦時中の女流作家の苦悩と、愛する男に対しての思いなど、作者独自の描き方が芙美子を魅力的なものへと高めている。「放浪記」がベストセラーとなり、ある程度裕福な生活をしていた芙美子が、軍の命令で南方へと向かうことになる。女流作家というのが、戦時中はどのようなあつかいであるのか、そして、国策として戦争を盛り上げる役目を果たしていたことに驚いた。
芙美子の恋愛は本作のメインのひとつだろう。禁断の愛というわけではなく、売れっ子作家として、愛人を持つことをある程度周りも容認しているなど、特殊な状況であることは間違いない。南方での生活と、他の女流作家との関係などとあいまって、林芙美子という人物が、ものすごく傲慢で勝気でいけすかない女のようにも思えてしまう。真実はどうであれ、戦時中にこれほど自由奔放に生活できていたのは、それなりの地位と名誉をもつからだろう。作中の描写では、本作が戦時中であることを忘れさせるような、優雅な描写もある。
林芙美子という人物にまったく興味がなかったが、本作を読むことで興味がわいてきた。どんな人物で、どのような作品を書いてきたのか。同じ女流作家として作者が題材に選んだのには、何かしらの理由があるのだろう。中年となってから、自由気ままに恋愛を楽しむというのが、作者の作品の特徴でもあり、林芙美子がまさにそのような人物だったのだろうか。戦時中ではない今、作者が芙美子をリスペクトしたうえでの作品なのか、それとも単純な記録として残したかったのか、あとがきがないので読み取ることはできなかった。
林芙美子という人物に興味がある人はもちろんだが、ない人にも楽しめる作品だ。
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