無理 下  


 2012.11.18    切り捨てられた世界 【無理 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻では登場人物たちの怒りや、やりきれない思いというのがヒシヒシと伝わってきた。すべてが悪い方向へと流れていき、先行き真っ暗な状態からどのようにして抜け出すのか。拉致監禁された女子高生が脱出できたあとの生活を悲観し、監禁状態に自然と慣れていくくだりや、市議会議員に次々と降りかかる難題など、人の不幸を連続で読まされていると、「なぜこうなるのか?」ではなく、偶然にしては恐ろしすぎるという恐怖感の方が強くなる。にもかかわらず、読み進める手を止められないのは、この危機からどうにかして脱出するという希望があるからだ。5人の不幸な男女の結末はどうなるのか…。ラストは、すべての創造主である作者がさじを投げるように、切り捨てられている。

■ストーリー

真面目に働くことの馬鹿馬鹿しさを知り、自分の地位が脅かされることにおののき、信じていたものには裏切られ…。5人の男女が心の軋みに耐え切れなくなった時、それぞれの人生は猛スピードで崩壊してゆく。矛盾だらけのこの国を象徴するかのような地方都市・ゆめのを舞台に、どん詰まり社会の現実を見事に描き切った群像劇。

■感想
地方都市ゆめので転げ落ちていく5人の男女。上巻ではそれぞれの生活状況が語られ、憤りや社会に対する鬱憤が描かれていた。本作では、それらの転落していく人々が最終的にどうなったかが描かれている。東京の女子大生になることに憧れる女子高生は、拉致監禁され、その後、どうなるのか。現実社会の事件を連想させ、「なぜ逃げなかったのか?」と誰もが考えることを、被害者の視点から描いている。監禁から逃げ出したとしても、その後、自分に降りかかる周りの奇異の視線を考えると…。行き場のない状況になると人は思考停止に陥るということなのだろう。

生活保護を断った結果、命を狙われることになった公務員。宗教団体の争いに巻き込まれた中年女性。詐欺商売にやる気を出しながら、先輩がとんでもないことをしでかす。何もかもがうまくいかない市議会議員。すべての登場人物たちの状況は、悪い方向へと転がっていく。読者は、これらの登場人物たちに、どのような救いの手段があるかを考える。このまま終わるにしても、何かはっきりとした結末があるはずだと予測する。悪い流れを断ち切る何かなのか、それとも落ちるところまで落ちるのか。もはや結末がどうなるかが気になるために、ページをめくる手を止められない。

ラストでは、すべての登場人物たちがあるひとつの場所に偶然集合することになる。それぞれが問題を抱えたまま、行き場なく、自暴自棄になりながら、成り行きに任せるしかない状況。結果的に、読者が期待していた結末は描かれていない。というか、すべてを放り出すような流れだ。あの女子高生はこの後どうなるのか。全てを失いかけている市議会議員は、今までの悪事を隠しとおせたのか。先輩の犯罪にいつのまにか巻き込まれた男は、自分の無実を証明できたのか。それらすべての結末は描かれていない。

意図的なのかもしれないが、読み方によっては、作者は最後の最後にすべてを放り出したように思えてしまう。




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