骸の爪  


 2011.1.27  マニアックなうんちく盛りだくさん 【骸の爪】

                      評価:3
道尾秀介ランキング

■ヒトコト感想

このシリーズは明らかに京極夏彦を意識しているのだろうか。今回は仏像がテーマとなっている。仏像の工房で巻き起こる不思議な出来事。ホラー作家の道尾がごく一般的な質問をし、それを特殊な知識を持った真備が答える。山奥の工房で起こった出来事のせいか登場人物は少ない。そのため、限られた世界の中で誰が何のためにやったことなのかが不明だ。二十年前の事件とどのような関係があるのか。ミステリーとして、トリックはそれほど驚くものではない。不可能な事件という思いもない。ただ仏像が笑ったり、仏像が頭から血を流したりという現象の答えがはっきりでるのかというのは気になった。小難しいうんちくがあり、知識欲は満たされるが、なかなかハードルは高い。

■ストーリー

ホラー作家の道尾は、取材のために滋賀県山中にある仏像の工房・瑞祥房を訪ねる。彼がその夜見たものは、口を開けて笑う千手観音と、闇の中で血を流す仏像。しかも翌日には仏師が一人消えていた。道尾は、霊現象探求家の真備、真備の助手・凛の三人で、瑞祥房を再訪し、その謎を探る。工房の誰もが口を閉ざす、二十年前の事件とはいったい。

■感想
仏像の工房でひたすら仏様を彫る仕事があるとは知らなかった。山奥でひっそりと限られた人間関係の中、ひたすら仏像を彫り続ける。二十年前に起きた不可解な事件が、新たな事件を巻き起こす。人が消え去り、そのことに対して工房の人々は口を開きたがらない。不思議なのは不思議だが、仏像が笑ったり仏像が頭から血を流したり。事前に真備が血を流すマリア像などはインチキだと言い、それと似たようなことが起こり、何かトリックがあるのではないかと思わせてくる。そのトリックはしっかりと解明されるが、無理矢理こじつけているように感じてしまった。

いつもの三人で謎を解明しようとする。独特な世界の中で、仏像を彫るということにどういった意味があるのか。魂をこめるための儀式や、仏像を作るためにはどういった工程が必要なのかなど、マニアックとも思える知識が押し寄せてくる。この手の仏像などに興味がある人にはたまらないだろう。しかし、何の興味もない人にとっては少々辛いかもしれない。小さな箱庭のような世界の中で、小さく繰り広げられる事件。こじんまりとした事件なだけに、壮大さはない。

作者は作中に登場する伏線をすべて漏れなく回収している。読者が忘れているようなことすら、しっかりと拾い上げている。そのためすべてに整合性が取れているように思えるが、後付のような印象もある。そんなことまで別に求めていないのに、というほど律儀なまでにオチをまとめ上げている。登場人物のほんのささいな一言が重要だったり、大げさな演出のわりに実はたいしたことがなかったりと、チグハグな印象もあるが、全体としてはしっかりまとまっている。

特殊なうんちくはすばらしいが、面白味はあまり感じないかもしれない。




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