もう誘拐なんてしない  


 2013.9.12     ああ、懐かしの下関 【もう誘拐なんてしない】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

しがない大学生が、ひょんなことから女子高生と狂言誘拐を企てる。ヤクザの娘と狂言誘拐という、一歩間違えれば人生を終えてしまうような出来事だが、そこに深刻さはない。全編とおしてあっけらかんとした明るさがある。ちょっとした会話にもユーモアがちりばめられており、シリアスな場面であっても、強引にユーモラスな展開へとすすめていく。

ヤクザにいたっては、どれだけ深刻な事態となっても、ギャグにしてしまう明るさがある。とんでもない失態を犯した子分たちが、指を詰めようとする場面であっても、どこか笑いを誘う雰囲気がある。狂言誘拐が成功するか失敗するかというよりも、結末がどのような流れになるのか。怒涛の後半は目が離せない。

■ストーリー

大学の夏休み、先輩の手伝いで福岡県の門司でたこ焼き屋台のバイトをしていた樽井翔太郎は、ひょんなことからセーラー服の美少女、花園絵里香をヤクザ二人組から助け出してしまう。もしかして、これは恋の始まり!?いえいえ彼女は組長の娘。関門海峡を舞台に繰り広げられる青春コメディ&本格ミステリの傑作。

■感想
下関を舞台にした作品。かなりなじみのある土地のため、出てくる地名にいちいち感動してしまった。知らない人はまったく知らないであろうマニアックな施設や地名が飛び交うので、土地勘のない人には、この面白さは伝わりにくいだろう。

自分の場合は、瞬時に頭の中にその情景が思い浮かんだので、下関を舞台にした狂言誘拐劇には、すんなりと入り込むことができた。フグや関門海峡など、知らない人にはただの文字でしかないが、はっきりイメージできるとできないのでは、かなり受ける印象が違う。

物語はただの狂言誘拐ではない。そこに偽札や殺人事件までが絡んでくる。実際はかなり大きな出来事なのだが、登場人物たちの場当たり的な行動を読まされると、それほど深刻ではないのか?とすら思えてくる。ヤクザを騙し、警察を騙す。そして、その先には自分たちも騙される。

この騙し騙されの世界は、ミステリーとしてよくあるパターンだ。トリックとしても、なんとなくだが「容疑者Xの献身」にも似た雰囲気を感じてしまった。トリックとしてはすばらしい。仕掛けの大掛りさはどうあれ、まさか?という思いはある。

物語全体として、どうにも常識はずれな印象を受けた。それは、主人公を含め、登場人物たちの行動が、ほぼ後先を考えない行動だからだ。いくら人助けとはいえ、ヤクザの娘と狂言誘拐を企てるか?警察につかまりたくないからと、女を人質にとり、船で逃げたりするのか?

それらの行動を正当化する強引な理論と、深刻にならず、すべてを軽く受け止めてしまう登場人物たち。事態の深刻さと、キャラクターのトーンが合っていないが、これは作者の他の作品でもいえることだ。

明るい狂言誘拐物語だ。




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