2012.9.10 「シアター!」好きは見逃せない 【もう一つのシアター!】
評価:3
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■ヒトコト感想
「シアター!」を舞台化した際の脚本集。脚本はいくつか読んだことがあるが、間違いなく言えるのは「シアター!」を読んだことがない人には辛いということだ。物語として演劇をテーマとした作品だけに、舞台化するにはまさにもってこいの作品だろう。脚本集ということで、読みながら頭の中には舞台上を想像するしかない。作中に作者の注釈が入っているが、どの部分で笑いが起きたかとか、作者の予想しない部分での笑いなど、裏話的な部分は面白い。シアターの世界が大好きな人には、まさによだれがでるような舞台かもしれない。舞台自体の評価がどうなのかよくわからないが、脚本を読む限りは、スラスラと読め、情景はしっかりと頭の中に思い浮かべることができた。
■ストーリー
春川巧が主宰を務める小劇団『シアターフラッグ』。300万の負債を抱え解散の危機が迫る劇団に、地方都市の高校から学校公演の依頼が舞い込む。利益が見込めないことを理由に反対する鉄血宰相・春川司を尻目に、初めての公演依頼に舞い上がる『シアターフラッグ』のメンバー達。しかし、意気揚々と学校へ乗り込む彼らに思いも寄らぬトラブルが次々と降りかかり…!?有川浩が舞台『もう一つのシアター!』のために書き下ろした珠玉の脚本集。
■感想
小劇団「シアターフラッグ」を現実の劇団員が演じる。作者が脚本を書き、「シアター!」の登場人物たちに最も感情移入しやすい者たちが、演じる。となると、演者たちの感想をきいてみたいところだが、とりあえず、脚本の前書きやその後の対談集を読むと、かなりのめりこんで演じていたようだ。となると、実際の舞台がどうだったかが気になる。脚本だけ読むと、面白いとは思うが、演じるとまた違った雰囲気になるのだろう。脚本だけで完全に面白いというイメージが植えつけられるほど、インパクトが強いわけではない。
本作では、「シアター」の永遠のテーマである”いい大人が演劇を続けることはどうなのか?”がそのまま、よりインパクトの強い形で描かれている。シアターの面々が失敗するよう暗躍する謎の人物。永遠のテーマについては、実際の劇団員が一番理解していることだろう。それをわかっている人物たちが、そのままシアターの面々となり、演劇愛を熱く語る。シアターの物語が今後どうなっていくのかわからないが、安易なオチにはならないだろう。現実的な物語になることを期待してしまう。
他の作者の脚本を読んだ印象と比べると、わかりやすさは段違いだ。キャラクターがすでに作り上げられているので、余計なキャラ紹介や、エピソードが必要ない。その代わり、すでに出来上がったキャラを演劇で実際に見る場合、読者が思い描いたキャラと大きく異なる可能性がある。おそらく、それらのリスクに気付いたからこそ、作者は最初に演者に対して細かいキャラ設定を説明したのだろう。それさえも、作者が想像したキャラであって、読者の意見を吸い上げたものではない。そのため、コテコテの「シアター!」ファンが演劇を見た場合に、どんな感想をもつのかが知りたくなった。
脚本としては、スラスラ読める心地良さがある。
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