もえない  


 2011.10.31  もしかして、ミステリーではない? 【もえない】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

カテゴリー的にはミステリーに入るのだろうが、特別なトリックや不可能殺人という印象はない。一人のクラスメイトの死をきっかけとして、自分の名前が描かれた金属片に違和感をもち調査を始める淵田。曖昧な記憶と友人の姫野との関係などで、読者を煙に巻こうとしているが、根本はごく普通の物語だ。「もえない」というタイトルの由来についても、なんだか微妙であり、事件の結末がすべて判明した後でも、消化不良感は残る。作者独特のキャラクターの日常生活というのは、それだけで何か裏があるように思えてしまう。怪しげな人物が登場するが、それがそのまま犯人となる。ミステリーとしても中途半端で、恋愛物語の要素も少しはあるが、それも微妙だ。

■ストーリー

クラスメイトの杉山が死に、僕の名前「FUCHITA」を彫り込んだ金属片と手紙を遺していった。手紙には「友人の姫野に、山岸小夜子という女と関わらないよう伝えてほしい」という伝言が。しかし、山岸もまた死んでいるらしい。不可解な事件に否応なく巻き込まれていく僕は、ある時期から自分の記憶がひどく曖昧なことに気づく。そして今度は、僕の目前で殺人が―。

■感想
どうも作者の新しいミステリー作品には、切れ味がない。名前が描かれた金属プレートという1つの手がかりから、物語全体を怪しい雰囲気にするのは辛い。突然発生した殺人事件にしても、特別なインパクトがあるわけではない。主人公の淵田の記憶が多少なりとも影響するのかと思いきや、そうではない。このミステリーは何をメインとしたかったのかがまったくわからない。忘れていた小学生時代の幼馴染と突然再会し、告白めいたことをされる。幼少期の記憶は重要なのだろうが、それだけで大きなインパクトが残せるわけではない。

小出しにされる謎もあるが、それも物語全体を牽引する力はない。女関係のもつれを連想させたいのか、それとも親友である姫野との三角関係を連想させたいのか。感情表現が乏しく人間味がほとんど感じられない主人公の淵田の考えを読んでいると、理屈にまみれた偏屈な人間のように思えてしまう。物語は後半から事件解決へ加速していくが、その段階になったとしても、謎の金属プレート以外には、特別興味をそそられる要素はない。そのため、ミステリーとして何を解明するのか、曖昧になってしまっている。

事件が結末へと到達しても、曖昧さは残ったまま、強引に物語を収束させたような印象は拭い去れない。一番のポイントである金属プレートがタイトルにもかかっており、人の名前も含めて、人間は燃えるが人の名前は燃えないという流れなのだろう。読み終わって、ミステリーとしての面白さがあるかというと、微妙と言うしかない。謎の時点でほとんど不可解さを感じる要素がないだけに、謎が解き明かされても驚きは特にない。ただ、淡々と事件が発生し、解決されたという印象しか残らない。

本作が世間でどれほど評価されているのか、それが一番気になるところだ。




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