御手洗潔のダンス  


 2013.1.8    御手洗潔の魅力たっぷり 【御手洗潔のダンス】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

複雑すぎるミステリーは相変わらずだ。ただ、この複雑さを楽しむべき物語なのだろう。空飛ぶ人間であったり、物理的にありえない状況での殺人であったり、舞踏病をとりあつかった物語であったりと興味をそそられる題材ばかりだ。が、ネタばらしされると、「なーんだ」と思うのはいつもどおり。ある奇妙な出来事が起こり、どれほど不可解な出来事かという説明があり、最後には御手洗があっさりと謎を解き明かす。パターン化されてはいるが、あつかう題材が特殊なので、面白さがある。特に「近況報告」の面白さがずば抜けている。本作があることで、御手洗潔というキャラクターに、より深みがでたように感じられた。御手洗潔ファンならば必読すべき作品だろう。

■ストーリー

人間は空を飛べるはずだ、と日頃主張していた幻想画家が、四階にあるアトリエから奇声と共に姿を消した。そして四日目、彼は地上二十メートルの電線上で死体となっていた。しかも黒い背広姿、両腕を大きく拡げ、正に空飛ぶポーズで。画家に何が起きたのか?名探偵御手洗潔が奇想の中で躍動する快作集。

■感想
「山高帽のイカロス」は、空を飛べると主張した画家が、まるで空を飛んだかのような格好で死んでいた。単純に考えると、何かのトリックかと思うが、それと同時に電車に紐で結ばれた腕の存在が奇妙な恐ろしさを演出している。空を飛んだような状況には、どのようなトリックがあるのか。読者はいろいろと想像するだろうが、物語はその上をいく複雑で大掛かりなトリックとなっている。前作の「御手洗潔の挨拶」でも感じたことだが、読者が想像できないようなトリックを作るには、大掛かりにするしかないということなのだろう。

「舞踏病」は、その存在すら知らなかったが、世の中に”舞踏病”という恐ろしい病気があることがわかった。一人暮らしの祖父の引越しに多額の金をつぎ込む男たち。祖父は舞踏病にかかっているという。この奇妙な男たちの目的は…。うっすらとだが、結末は想像できた。消去法で考えると、何かしら祖父に秘密があるのはわかった。ただ、これも舞踏病という奇妙な病気を強く印象付けることにより、その他の答えを考えさせないようにしている。構成のうまさであり、選んだ題材のうまさなのだろう。

「近況報告」は、まさに御手洗潔ファンならば読んでおくべき作品だろう。今までのシリーズを読んでいれば、なんとなくだがそのキャラクターはわかってきた。が、何で金を稼いでいるのかや、前はどんな職業についていたのかはよくわからない。本作は、そんな御手洗潔ファンの知りたいことがたっぷりとつまった物語になっている。天才的頭脳をもちあわせてはいるが、気難しく気分屋であつかいづらい。名探偵としてはすでにお決まりのパターンかもしれないが、キャラクターの全体像がつかめ、さらにはより深く特徴が知れたのは、これからシリーズを読む上では欠かせない短編だろう。

御手洗潔には正直たいして興味はなかったが、「近況報告」を読んでから、俄然興味がわいてきた。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp