みんなのうた  


 2013.10.1     東京から逃げ帰った先は 【みんなのうた】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

夢破れて東京から帰ってきたレイコ。都会で夢破れたものが田舎のしがらみに困惑する物語だ。田舎はいつもどおり山口を舞台にしているのだろう。方言になじみがあるだけに、普通の人よりも本作に関する感じ方は強い。ある意味都会から逃げ帰った形のレイコ。田舎独特の考え方と、跡取りのしがらみ。過疎化がすすみつつあり、高齢者ばかりの土地で、どう過ごすのか。

同じく東京から逃げ帰ったイナちゃんとレイコは対照的な性格で、レイコのウジウジした悩みを強調している。ふるさとに帰ればすべて受け入れてもらえるのは間違い。田舎は田舎の問題があり、都会以上に住みにくい場合もある。作者にしてはめずらしく、これといった結論のないまま終わった物語だ。

■ストーリー

東大を目指して上京するも、3浪の末、夢破れて帰郷したレイコさん。傷心の彼女を迎えるのは、個性豊かな森原家の面々と、弟のタカツグが店長をつとめるカラオケボックス『ウッド・フィールズ』だった。このまま田舎のしがらみに搦めとられて言い訳ばかりの人生を過ごすのか―レイコさんのヘコんだ心を、ふるさとの四季はどんなふうに迎え、包み込んでくれるのか…。

■感想
東大をめざし上京したはいいが、夢破れて田舎へ逃げ帰ったレイコ。田舎では弟のタカツグがカラオケボックスの店長をやっていた。都会から逃げ帰った者のプライドと、田舎の過疎を嘆くような物語だ。まず、レイコが夢やぶれ田舎に帰ったとしても、その状態でもまだ東大受験を諦めないその往生際の悪さばかりが印象に残っている。

何のために田舎へ戻ってきたのか。地元の大学へ進学すべきではないのか。もしくは就職や結婚なんて…。元秀才というプライドが邪魔をし、しつこく東大の夢を諦めきれないレイコの気持ちはよくわかる。

タカツグがいつのまにか祖母や母親に言いくるめられ跡継ぎにされていたことにレイコは戸惑う。物語の根底には、田舎で親たちの面倒をみて暮らすのは避けたいという思いがある。誰もが東京にあこがれるわけではないが、田舎暮らしに対する強烈な先入観がある。

中には好き好んで田舎暮らしを続ける人もいるだろうが、本作では田舎よりも都会という流れになっている。田舎に暮らす両親の面倒は誰が見るのかというのは、作者の作品に良く登場する話題だ。作者自身が直面している問題なのか、それとも最大公約数的な悩みなのだろうか。

田舎暮らしか都会暮らしか。それとも将来何をしたいかわからない問題なのか。レイコの悩みは様々でひとつに絞られることがない。基本は田舎でさみしく暮らす高齢者の面倒を誰が見るのかを問題にしている。金さえ払えば良いわけではない。

本当の幸せは家族みんなが同じ家で暮らすことらしい。それがどうしてもできない場合はどうすればいいのか。相変わらずそのことについてはっきりとした答えはでていない。永遠のテーマかもしれないが、すべてのしがらみを捨て、レイコが前へ進むことだけが唯一の救いかもしれない。

田舎に残した両親をどうするのか。それは答えのでない問題だ。




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