港町食堂  


 2011.6.26  まっとうな旅エッセイ 【港町食堂】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者のエッセイは、笑いが盛りだくさんだ。「延長戦に入りました」は、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。本作でも、その手の笑いを期待していたが、蓋を開けてみれば、ものすごくまっとうな旅エッセイとなっている。毒舌もあまりなく、何かを茶化すような笑いもない。旅先の名物を食べ、地元のスナックで飲み、船に乗る。港町へ船で乗りつけるということ以外は、どこにでもある普通の旅エッセイだろう。同行編集者が大食いということや、もてるタイプだということが特徴なのだろうか。その土地の雰囲気は十分味わうことができ、旅エッセイとしては申し分ない。しかし、どうしても、作者のエッセイには笑いを求めてしまうので、少し期待はずれかもしれない。

■ストーリー

旅はいい。感じる風がいつもとちがう。ただし、わたしは無精者である。誰かに背中を押してもらわないと出かけられないのだ―。旅雑誌の企画に乗り、さまざまな港町を船で訪れることになった作家・奥田英朗。その行く手には、美女と肴と小事件が待ち受けていた!土佐清水、五島列島、牡鹿半島、佐渡島、ちょいと足を伸ばして釜山。笑い、毒舌、最後はしみじみの、寄港エッセイ。

■感想
売れっ子作家の特権というべき、旅エッセイ。あごあしつきで、その土地のうまいものを食う。すべてがいたれりつくせりで、多少不便なことがあったとしても、そこはすべて同行編集者がカバーする。この手の作家の旅エッセイだと、毎回羨ましさがつのる。仕事とはいえ、半分以上は旅行気分があるのだろう。船で港町へのりつけるというのが、このエッセイのテーマらしいが、それ以外には特徴はない。港では新鮮な魚を食い、土地の名所についての感想をのべる。旅エッセイとはこういうものなのだろうが、なんだか微妙だ。

その土地について、知らない人は、知識としてどんな土地かというのが頭に入るだろう。まぁ、ほとんどが食べ物関係かもしれないが。それよりも、地元の人が本作を読んだとしたら、かなり感動モノだろう。自分の地元に作家がやってきて、旅のエッセイを書くというのは、とんでもないことだ。直木賞作家となれば、さらに盛り上がる。作者は謙遜して知名度がないというような書き方をしているが、なんだかんだと、有名人としての特権を十分味わっているようでもある。

旅エッセイを読むと、うらやましくなる。たとえ強行スケジュールであろうと、締め切りが迫った仕事をほっぽりだしての取材だろうと、うらやましいことにはかわりない。フェリーに乗り、何時間もやることのない暇な時間をすごすというのは、最上の極楽ではないだろうか。その土地のスナックでは、東京から取材がきたということで、モテまくり(イケメン編集者だけかもしれないが)、楽しいふれあいがある。作者が独身であるということや、食べ物に対しての考え方など、意外な本音が知れたのは良いが、ただの旅エッセイであることは間違いない。

悪くはない。旅行エッセイ好きにはたまらない作品だろう。




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