2011.7.1 作者からの挑戦状 【鳴風荘事件-殺人方程式2-】
評価:3
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■ヒトコト感想
前作は王道すぎるミステリーという印象があった。本作も、ある意味王道ではあるのだが、作者の読者に対する挑戦状のようなものがある。ある事件が発生し、その犯人はいったい誰か?答えはそれまでの登場人物たちの、会話や行動でわかるらしい。正直、まったく答えはわからなかった。理論的に筋道を立てて答えを導きだすことができるとは思えなかった。そんな状態で物語のラストを読むと、「うーむ」と微妙な唸り声を上げてしまう。確かに整合性はとれているのだろうが、なんだか現実感がない。トリックの斬新さというよりは、それを導き出した強引さに驚いてしまう。数学の答えをだしたはいいが、導きだした公式があまりに複雑すぎて、理解できないというような感じだ。
■ストーリー
六年半前の月蝕の夜、美島夕海の姉・紗月が惨殺された!―夫の明日香井叶ではなく、双子の兄・響を伴い、鳴風荘を訪れた深雪。再会した友人たちの中には、死んだ姉そっくりに変貌した夕海の姿が…。その夜、再び不可解な殺人事件が勃発する!犯人は何故、死体の髪を切って持ち去ったのか!?
■感想
主要キャラクターは前作をそのまま引継ぎ、六年半前の事件と関係があると思わせ、現在の事件が引き起こされる。斬新さはない。主要キャラクターの響と深雪が事件に巻き込まれ、誰が犯人かというのを響が推理する。事件自体が不可能な事件ではない。密室であるわけでもない。そのため、作中では早々と外部からの侵入者という意見がないことにされている。ご都合主義的だが、鳴風荘に泊まった者と、一部の関係者に絞られている。かなり限定的な状況を無理矢理作りあげたということだろう。そうしなければ、物語として成立しないというのがあるからだろう。
事件に対して、それらしいヒントが散りばめられている。響の推理を読みつつも、頭の中では自分の推理を展開するが、まったく想像力がわかない。なぜなら、現実感がなく、ある程度の理由が示されているとしても、常識では考えられない行動だからだ。結末前には、すべての行動に対して、それなりの理由付けがされているが、納得はできない。作者の挑戦に対して、トリックの過程を含め、すべて正解した読者というのは、存在するのだろうか。重箱の隅をつつくような読み方をしたとしても、答えにはたどりつけない気がした。
この手の作品が好きな人にはたまらないだろう。作中に散りばめられている小さなヒントを見逃さず、すべての整合性を判断し、答えを導き出す。まるで難解な数学の問題を解いているような気分かもしれない。一般的なただのミステリー好きが、本作の謎解きを楽しめるかというと疑問かもしれない。数学の問題があまりに難しすぎて、問題を解く前に答えを見てしまう。そして、答えを見たはいいが、まったく理解できない。かなりハードルが高く、何も考えずに読むと納得できないまま終わってしまうだろう。
このシリーズは王道ミステリー路線のようだが、トリックが斬新でないと厳しいかもしれない。
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