マリアビートル  


 2011.10.19  強烈に憎たらしい中学生 【マリアビートル】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

グラスホッパーの続編。相変わらずハードボイルドが似合わないキャラクターたちだが、今回はそこに、強烈な憎たらしさをみせる「王子」という中学生が登場する。この「王子」のムカムカする考え方と行動を読みつつ、「王子」が最後にあたふたする姿が読めるかということだけを楽しみに読み進めた。いつもの、とても殺し屋とは思えないほのぼのとしたキャラたち。殺伐とした雰囲気のはずが、「七尾」や「蜜柑」「檸檬」たちの思考を読んでいると、イメージがわいてこない。ちょっと配達に行ってくる程度の軽い感じで殺人を実行するが、そこに恐怖や深刻さはない。作者のキャラでハードボイルドというのは、前作もそうだが、どうにもしっくりこない。「王子」の嫌なキャラだけがしっかりとキャラ立ちしている。

■ストーリー

元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが再びやって来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。

■感想
東京から盛岡へ向かう新幹線の中でくりひろげられる出来事。気付けばほとんどの登場人物が殺し屋というとんでもない状況で、複数の殺し屋たちが自分たちの目的のため、新幹線内を右往左往する。作者得意の人間味はないが丁寧な語り口と独特な信念をもつキャラたちが大暴れする。基本的にこの作者のキャラが受け入れられないと辛い。ハードボイルドタッチだが、キャラが終始落ち着いた行動をとるために、事態のドタバタ感があまり伝わってこない。このキャラクターたちにどれだけ魅力を感じることができるかで、評価は大きくわかれるだろう。

本作の中で一番キャラ立ちしているのは、間違いなく「王子」だ。大人の考えを先読みし、中学生という立場を最大限に利用する憎たらしいやつ。現代っ子ならではの正論を口にし、相手を追いつめる。かと思うと、吐き気がするほど卑怯な手をつかってくる。こんな中学生がいたとしたら、1秒でも同じ空気を吸いたくない。それほど憎たらしく嫌らしいキャラクターだ。物語は「王子」とその他の殺し屋たちという感じでわかれてはいるが、最後に「王子」に天罰が下るというのは想像できた。ただ、その天罰がどれほど今までのイライラを解消してくれるか、そればかりを期待していた。

殺し屋が登場するので、当然死人もでてくる。それがちょっとした簡単な仕事をすますように、あっさりと殺人を実行する。そこに深刻さはなく、ただの日常の一場面というように、物語はすすんでいく。独特なキャラクターたちの面白さはあるが、ハードボイルドとして、あちこちで殺し合いが起こる物語には思えない作品全体のトーンがある。「王子」の結末についても、なんだか煮えきらず、ストレスは溜まったままだ。作者のキャラクターの良さはでていると思うが、グラスホッパーの時に感じた印象とあまり変わらない読後感だった。

悪くはないが、このキャラクターたちのハードボイルドというのは、どうも違和感がある。




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