グラスホッパー 伊坂幸太郎


2007.11.6 驚きと爽快感は… 【グラスホッパー】

                     
■ヒトコト感想
軽快なリズムと知的な会話。最初は無意味な会話と思っていた部分が、実は後になるとその重要性に気がつき、驚きと爽快感を味わう。そんな作品がこの作者の特徴だったはずだ。しかし、本作に限り、その軽快なリズムが、ハードボイルドの世界には似合わないと感じた。というよりも、全体の雰囲気がハードボイルドに似合わない。今までの傾向からして、どうしても期待は大きくなる。この仕掛けは後に大きな影響を及ぼすとか、後であっと驚かせてくれるとか。結局はなんてことなく、あっさりと終わってしまったような気がした。

■ストーリー

「人は誰でも、死にたがっている」「世界は絶望と悲惨に塗れている」でも僕は戦おうと思うんだ。君との記憶だけを武器にして―復讐。功名心。過去の清算。それぞれの思いを抱え、男たちは走る。3人の思いが交錯したとき、運命は大きく動き始める…。クールでファニーな殺し屋たちが奏でる狂想曲。

■感想
知的な会話に、マニアックな薀蓄。そして、わけのわからない喩えに、教訓じみた言葉。すべてが今までの伊坂幸太郎作品となんら変わりはないはずなのに、なぜかしっくりとこない。奇妙な登場人物たちと、奇妙な事件。現実には決して存在しないようなキャラクターたちが繰り広げる物語を、今までならば楽しみながら読むことができた。しかし、本作に限っては、なぜか違和感を感じてしまい、物語にのめりこむことができなかった。

ハードボイルド風の本作。押し屋や自殺屋など、普通ではないところは引かれる部分ではある。しかし、ふたを開けてみると、なんてことないように感じてしまう。結局、あの奇妙な登場人物たちは、いったいなんだったのだろうか、そして、押し屋や自殺屋はなぜそのような力を手に入れることができたのだろうか。読者の疑問をほっぽりだして、物語はハイスピードで進んでいく。

今までの作品では、登場人物の中には、特に気になる者がいたのだが、今回に限り、ほとんど特別な感情はわいてこなかった。会話のリズムは相変わらず軽快で、なんだかわけのわからない喩えも、知的な雰囲気がでていてよい。これが伊坂作品の真骨頂だと思う。ただ、それだけで終わっている。物語の骨組みが随分と弱く、読んでいても、物語に集中することができなかった。期待していただけに、かなり高いハードルとなっている。

いつもの伊坂作品に違いはない。雰囲気もそのまま、安心して楽しむことはできるが、それ以上ではない。つまり、読み終わって、それほど印象に残ることのない作品だろう。




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