マンチュリアン・リポート  


 2011.9.24  教科書を読むより勉強になる 【マンチュリアン・リポート】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

蒼穹の昴から始まり、珍姫の井戸、中原の虹から本作へとつながっていく。張作霖爆殺事件の真相を暴くという形式の本作。間違いなく、中原の虹を読んでおくべきだろう。作者の想像する世界は、中原の虹ではかなり想像力豊かで、歴史的事実意外の部分で面白さをはっきしていた。本作ももちろん、その流れにはのっているのだが、一番のポイントは鉄道そのものに人格を与え、張作霖と会話させたことだろう。このことにより、誰も知らない張作霖の本性を描くことができ、物語に深みがましている。すべてを予見していたような張作霖の行動。さまざまな関係者が語る言葉をリポート形式で描き、作者独自の解釈を加えた物語。このシリーズを読んでいると、すべてが真実のように思えてくるから不思議だ。

■ストーリー

昭和3年6月4日未明。張作霖を乗せた列車が日本の関東軍によって爆破された。一国の事実上の元首を独断で暗殺する暴挙に昭和天皇は激怒し、誰よりも強く、「真実」を知りたいと願った―。混沌の中国。張り巡らされた罠。計算と誤算。伏せられた「真実」。

■感想
中原の虹からつながる物語。張作霖の爆殺事件を、とある日本軍の兵士が調べることから始まる本作。歴史的なことは重要な部分しか知らず、細かい話はまったく知らないまま読んだが、新鮮な驚きもありつつ、歴史の勉強にもなったような気がする。特に、昭和天皇が強力な力をもち、軍や首相に対してもそれなりに意見していたというのには驚いた。晩年しか知らないだけに、若く血気盛んなころは、自分をとおりこして行われる数々の秘密行動に怒り心頭だったのだろう。このあたり、今では考えられないことだが、当時の時代背景を考えると納得できることなのだろう。

張作霖を爆殺したのは誰のさし金か。公にされた事実以外に、もはや公然の秘密となった部分を作者ははっきりと描いている。関東軍がすべてをしきっていたという流れは当然なのかもしれないが、なんらかの不穏な空気を張作霖が感じていたという描写がある。あくまでも本作は、中原の虹の流れを引きついでいるので、張作霖はすばらしい力をもっており、超人的な何かがあるとうい流れだ。レポート形式で、隠れた真実が明らかとなり、事件の細部までもが描かれている。作者の想像がどの程度入っているのかわからないが、これを歴史的事実として認識してしまってもかまわないような気がした。

本作では張作霖が乗り込む鉄道に人格を与え、死へ向かう張作霖との会話が繰り返されている。このことにより、当時、張作霖が何を思っていたのかを作者なりの想像で描いている。事件についてたいした知識がなくとも、強烈な衝撃をうけるだろう。第二次世界大戦前の日本では、満州が重要な土地であり、敗戦国となる前の日本の他国への影響力の強さや、その時代の日本の立場など、歴史の教科書を読むよりも何倍も勉強になるのは間違いない。本作をきっかけとして、この時代の歴史が好きになった。

まだまだ続くであろうこのシリーズ。先が気になって仕方がない。




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