マドンナ  


 2011.2.19  中間管理職はツライよ 【マドンナ】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

営業部に勤務する課長たちが主人公の短編集。この手のサラリーマン物語だと、どうしても重松清の作品を思い出してしまう。が、書き手が違うとこうも印象が違うものか。中間管理職の辛さというのはどちらからも伝わってくるが、悩みに対してのスタンスや、物語のトーンは明らかに本作の方が明るい。課長たちが直面した問題の裏に隠れた真実を描くとか、「実はあいつも辛いんだ」といったような、物語をひっくり返す的なオチがあるわけではない。とっつきにくい女上司の鉄の心は最後まで変わらず、部下のマドンナをあっさりと諦める。サラリと流れる展開だが、妙な明るさと楽しさがある。ウジウジと悩み苦しみ、気を使いすぎて自分の意見が言えない課長ではないのが大きいのだろうか。

■ストーリー

ああ、なんてかわいいオジサン達なんだろう42歳課長、部下に密かにときめく。46歳課長、息子がダンサー宣言。44歳課長、営業から総務へ異動。課長さん達の日常。そこにある愛しき物語5編を収録!

■感想
中間管理職の辛さを描いているわけではない。課長というポジションでの苦労というのは描かれているが、なんだかその苦労を楽しんでいるように感じてしまう。部下に密かに恋心をいだく課長などは、はっきりいえば課長という肩書きがなければ、ただのわがままな新入社員にしか思えない。ちょっとした相手の仕草から裏を探りだそうとし、プライベートのことにまで神経を使う。それでいて立場を考え、あからさまな態度はとれない。同僚と休みが重なればヤキモキし、自分が一緒に外出すれば周りに変な気を使ってしまう。なんだかすごくくだらないことのように思えるが、なんとなく気持ちはわからなくもない。

息子がダンサーになると言った課長の物語は、サラリーマンとしての宿命を感じずにはいられない。幸運にも自分の会社にはそんな習慣はないが、休日に行われる会社行事に出席することが出世に響くとなると辛い。一匹狼である同僚のかっこよさに憧れるが、現実を見ると上司に媚を売る課長が正しいのだろう。最終的には、鬱積した気持ちが爆発するような終わり方だが、それすらもサラリーマンだからこその行動のように思えた。ウジウジと悩むのではなく、衝動的に行動するあたり作者の終始一貫したポリシーのようなものを感じてしまう。

突然あらわれた女上司の改革に四苦八苦する課長や、総務の裏金を生み出す仕組みなど、かなり考えさせられるものもある。しかし、そこでも何か教訓めいたことで終わるのではなく、女上司は最後まで信念を貫き、課長はそのことに恐れおののくことしかできない。このパターンであれば、最後には女上司が「私も辛いのよ」なんて告白して和解するってのが定番のような気がしたが、そうはならない。このあたりが、しみったれた終わり方だと感じない要因なのかもしれない。

もし、現役の課長が読んだとしたら、触発されて変な行動にでるかもしれない。




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