ロング・ロング・アゴー  


 2013.1.17    思い出がフラッシュバック 【ロング・ロング・アゴー】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

なんと言えばいいのか。子どもの物語や子どもの時代を回想する物語など、すべてが子どもの頃に経験したことをベースに語られている。そのため、大人であれば、「これも人生」と思うようなことであっても、小学生がそんな経験をしているとなると、わかってはいるのだが、なんだかシンミリとした気分になる。自分が子どもの頃も、似たようなことは考えていたはずだ。誰がクラスのリーダーで、誰の家が金持ちで、誰がちょっとトロいか。子どもらしい残酷さもあれば、子どもだからこそ感じる優しさがある。大人となり、いろいろな人生経験をつんだとしても、子どもの頃に経験したことは忘れないだろう。すでに十分大人な人たちが読んでこそ、真の味わいを感じることができる作品だ。

■ストーリー

最後まで誇り高かったクラスの女王さま。親戚中の嫌われ者のおじさん。不運つづきでも笑顔だった幼なじみ。おとなになって思いだす初恋の相手。そして、子どもの頃のイタい自分。あの頃から時は流れ、私たちはこんなにも遠く離れてしまった。でも、信じている。いつかまた、もう一度会えるよね―。「こんなはずじゃなかった人生」に訪れた、小さな奇跡を描く六つの物語。

■感想
もっとも印象深いのは「いいものをあげる」だ。金持ちで誇り高いクラスの女王さまが、家の没落と共に求心力をなくしていく。女王さまの家が没落する一因となった家庭の転校生は…。大人の世界の地位がそのまま子どもの世界にまで入り込むのはマレだろう。が、突き抜けた存在ならばありえるのだろう。そんな女王さまが、没落していく。大人の世界の終焉が、そのまま子どもの世界へと侵食し、子どもらしい残酷さで手のひらを返す。一夜にしてクラスのイジメのターゲットとなる現実は、わかってはいても悲しい。そして、子どもたちの容赦なさも、現実にありえることだ。

「永遠」は、思わず昔近所に住んでいた兄弟を思い出してしまった。発達障害の弟を持った姉が、弟の結婚式に、昔よく弟と遊んでいた友達を呼ぼうとするのだが…。発達障害の扱いというのは、普通の人はどうしても腫れ物に触るようなあつかいをするか、見てみぬふりをするしかないだろう。昔近所に住んでいた兄弟は兄が発達障害だった。その弟と仲が良かった自分としては、微妙にわずらわしさを感じていたのは確かだ。本作ではそのあたり、難しい題材ではあるが、ズバリ描いている。読んでいると、昔の自分を思い出し、心が痛くなったりもした。自分の当たり前の感覚が間違っていたのだと思い知らされる作品だ。

「チャーリー」に登場する主人公の気持ちは非常によくわかる。運動も勉強も特別できるわけでもない男の子が、自分の居場所として野球チームの監督という名の雑用を引き受けることになる。誰もが嫌がることを積極的にやることで居場所を作るのだが…。自分が周りと違って、何ができて何ができないのかがはっきりわかり始める時期というのは辛い。小学校低学年のように、みんな仲良くわけ隔てなくというわけにはいかない。そして、自分のプライドという名の強がりで、無理をする。先生や家族にそんな姿を見られるのを何より嫌がる。プライドの塊の少年時代をすごした人には、心にグサグサと突き刺さる物語だ。

作者の作品は、子ども時代の思い出をフラッシュバックさせる力がある。




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