虚像の道化師 ガリレオ7  


 2013.4.21     ガリレオらしさ満載 【虚像の道化師 ガリレオ7】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ガリレオシリーズ。タイムリーにテレビドラマが始まった関係上、どうしても比較してしまうが、小説ならではの面白さがある。ガリレオシリーズの醍醐味である、奇妙な現象の科学的な解明については、今回も盛り込まれている。特に前半の「幻惑す」と「心聴る」は、まさにガリレオの面白さを凝縮したような作品だ。

超能力か超常現象か。不思議な現象を解明する際のワクワク感は、テレビドラマ化されても色あせるものではない。それにくらべ後半の二作品は、ガリレオらしくない。科学的な解明というのは、オマケ程度に付け加えられている。これをあえてガリレオシリーズとするには、特徴がなさすぎるようにも感じられた。

■ストーリー

指一本触れずに転落死させる術、他人には聴こえない囁き、女優が仕組んだ罠…刑事はさらに不可解な謎を抱え、あの研究室のドアを叩く。

■感想
まず冒頭の「幻惑す」にやられてしまった。新興宗教の教祖が念をあやつり人を殺す。念の正体がなんなのかを湯川が解明するのだが、摩訶不思議感がすばらしい。どう考えても超能力としか思えない状況を、湯川が鮮やかに看破する。

科学的な小難しい説明が嫌だという人もいるかもしれないが、なんならその部分は飛ばしてしまっても構わない。理論的な方式を理解せずとも、雰囲気として念の正体がわかりさえすれば、それだけで十分楽しめる作品になっている。

「心聴る」は、なんとなく仕掛けが想像できた。が、答えがでるまでは、あいまいなまま読みすすめるしかない。ガリレオシリーズの全般にいえることだが、そんなことで人は自殺したり、飛び降りたりするのだろうか、という疑問は残る。

普通のミステリーだったら、説得力がないと感じるが、ガリレオシリーズならばそれも許される土壌がすでに出来上がっている。常に人を驚かすような特殊な技術をどこからか見つけ出し、ミステリーにつなげる作者はすばらしい。おそらく、まったく架空のものではなく、実現性は乏しいが科学的な裏付けのあるトリックとなっているのだろう。

後半の二作品は、あえてガリレオシリーズで、という雰囲気はない。「演技る」があの名作「容疑者Xの献身」にどこか似ている部分はあるが、湯川の活躍シーンが少ないというのが一番の原因だろう。事件について不思議さはほとんどなく、事件後のアリバイや状況を推理するというだけだ。

科学の話から離れ、人の心の不思議さを物語としてアピールしている。この流れはありだとは思うが、短編として描いてしまうと、キャラが掘り下げられていないため、物語としての厚みがないように感じてしまう。

前半ニ作品は、ガリレオシリーズとして、かなり高水準な作品だ。



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