極北クレイマー 下  


 2011.8.2  限りなくノンフィクション的 【極北クレイマー 下】

                      評価:3
海堂尊おすすめランキング

■ヒトコト感想

上巻で上がった数々の問題を下巻では、劇的な解決か厚生労働省の変人が登場しかき回すものと思っていた。しかし、物語としては現実世界の問題を、フィクションを交えながら大げさに描き、結果もほぼ現実と同様の流れとしている。そのため、妊婦の医療事故問題にしても、当時の状況で止まっている。現在ではその後大きく状況が変わったのだが、本作では途中経過までしか語られていない。その他にも、医療の現場を評価する機構の無意味さや、財政難の市民病院の行く末などが描かれているが、大きな驚きはない。もっとフィクションならではのありえない展開だとか、画期的なアイデアがあるのかと思いきや、現実世界同様、ごく当たり前の結末となっている。

■ストーリー

財政難の極北市民病院で孤軍奮闘する非常勤外科医・今中。妊産婦死亡を医療ミスとする女性ジャーナリストが動き出すなか、極北市長が倒れ、病院は閉鎖の危機に瀕し―。はたして今中は極北市民病院を救えるのか?崩壊した地域医療に未来はあるのか。

■感想
本作のメインとなるべき妊婦の医療事故問題。根は深く、警察組織と大きな関わり合いがあるのは確かで、本作でもそれが描かれている。しかし、それだけで、現実世界では事態は大きく動きだし、冤罪ではないかという声まで上がっている。本作では、恐らく執筆時点での状況を考えてこのような中途半端な状況で終わっているのだろう。フィクションでありながら、現実世界の出来事を題材とし、さらには誰が読んでも元ネタがわかりそうな書き方をしているので、へたなことは書けなかったのだろうか。

過去のシリーズで印象的な人物の名前がチラホラと登場し、繋がりがあるように思わせている。ただ、上巻では姫宮が暗ににおわせていた、ある人物の登場がなかったことに驚いた。財政難で困窮した病院を改革するには、変人の登場が不可欠と思っていた。医療現場の評価についても、素人にとってはまったく知りえない出来事を作者は伝えたかったのだろう。金がかかり、ほとんど意味がなく、重箱の隅をつつくような調査。あからさまな批判はないが、意味がないというのは作品からヒシヒシと伝わってくる。

財政難の都市は、まちがいなく夕張市なのだろう。病院の雰囲気も取材をした病院に似ているらしい。となると、現実の問題をわかりやすく一般人に説明したという功績はある。しかし、それだけではなく、エンターティメントとして、どこか心がすっきりとするような、大きなインパクトがある出来事がほしかった。今までのシリーズでは、そのあたりが作者の主張としてかなり強烈なインパクトを残していたが、本作はモデルがあるだけに、あまりに現実離れしたことが書けなかったのだろう。妊婦の医療事故など、現実とは違う結末になってもよかったはずだ。

期待していただけに、現実的な終わり方に少しがっかりした。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp