黒い箱  


 2012.7.18   ブラックボックス化された世界 【黒い箱】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

タイトルの黒い箱というのは、ブラックボックスということなのだろう。冷蔵庫がなぜ冷えるのか、意味がわからずに使い続けるという言葉が頻繁にでてくるように、ブラックボックス化されることについて何か意味があるのだろう。夢か幻かそれとも現実か。不可解な出来事が続くが、その理由がわからないまま受け入れる男。男からすると、その原理はわからなくとも、現実に起きているから受け入れざるお得ないということだろう。冷蔵庫がなぜ冷えるのか、なんてことを考えることに意味がない。だとすると、なぜ目の前に美しく若い女がいるのかを考えても仕方がない。考えることを放棄し、流されるままに生きていく男がどのような末路を迎えるのか…。

■ストーリー

黒い箱を抱えた男が空を飛ぶのを見たのが白昼夢の始まりだった。家に帰ると、妻が行先も告げずに旅に出てしまっていた。仕事部屋に行ってみると、見知らぬ女が勝手に上がりこんでいた。新手のコールガール?泥棒?それとも気がちがっているのか?―わけが分からないままに奇妙な黒い箱に翻弄された男の微熱を帯びた九日間。

■感想
黒い箱を抱えた男が空を飛ぶのを目撃する。そこから始まる奇妙な出来事に整合性はない。年に一回は旅にでる妻が、そのタイミングで旅に出て、仕事場には見ず知らずの女が勝手に上がりこんでいる。普通であれば、その奇妙な状況に違和感をもつことだろう。そこには、はっきりとした理由がなく、ただ、現実に起きているから受け入れるしかないというスタンスだ。どことなく村上春樹的ではある。何かが起きているが、その何かがよくわからない。物語のオチとして、最後に全ての理由の説明を求めてしまうのは定番かもしれない。

黒い箱というタイトルどおり、ブラックボックス化された出来事ということなのだろう。日々の生活においても、その原理や仕組みがわからないまま使っているものがある。冷蔵庫がどうやって冷えるかなんて、ほとんどの人が知らない。本作では、そのことを引き合いにだし、すべての出来事をブラックボックスとして扱おうとしている。そのため、奇妙な出来事の原因が語られることはない。何かしら推測することはできるが、はっきりと作中で明言されることはない。

作者の今までの作品とは、随分毛色がちがっている。明確なオチがないまま、物語が終わっている。強烈なインパクトはないが、後に残る奇妙な読後感はある。突然、目の前に若い女が現れ、自分と親しげに会話を繰り返すと、その行き着く先は、作者得意の展開だ。抑圧された日々の欲望が、妄想や白昼夢となって現実世界に現れているようにも思えてくる。細かな伏線があり、最後に何かがあると思わせておきながら、結局何もおきない。作者にしてはめずらしい構成かもしれない。

強烈なインパクトはないが、奇妙な雰囲気はある。




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