暗闇の囁き  


 2011.7.6  怪しい要素たっぷりのホラー 【暗闇の囁き】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

囁きシリーズとしてホラーミステリーとなってはいるが、シリーズとしての繋がりというのはない。怪しげな洋館で巻き起こる事件というのはすでに定番で、そこに謎の美しい兄弟が登場する。物語としては、謎の第三の人物であるアキが鍵を握っている。名前だけが一人歩きし、その存在は見えない人物。何か大きな秘密があるのは、かんたんに予想がつく。結末までどういった理由づけがされるのかというのが一番のポイントだ。本作は、次々巻き起こる事件の裏で、誰が動いているのかわからない状態で最後にトリックが明かされる。そこへたどり着くまでにある程度犯人は予測できるのだが、最後の最後まで結論をぼやかしている。ミステリーの要素は弱いかもしれないが、ホラーとしては定番をしっかりおさえている。

■ストーリー

黒髪を切られ変死した女性家庭教師。そして従兄とその母親も眼球と爪を奪われて死んだ。謎めいたほどに美しい兄弟のまわりに次々と起こる奇怪な死。遠い記憶の闇のなかから湧き上がってくる“囁き”が呼び醒ますものは何か。『緋色の囁き』に続く異色の長編推理“囁き”シリーズ第二弾

■感想
美しい双子の兄弟、厳しい父親、性格に難ありの叔母さんに、すべてを知りながら語ろうとしないお手伝いの老夫婦。すべてにおいて怪しげな要素はそろっている。人里はなれた洋館に子供たちの家庭教師としてやってきた女と、近くに卒論のためにやってきた男が主人公なのだが、最初から怪しさ溢れる登場人物たちだ。極めつけは、精神を病んだ母親と、双子の兄弟の兄にあたるアキという少年がいたという描写だ。ここまでお膳立てされると、どのような物語でもミステリアスで恐ろしいものになってしまう。この設定だけで、好きな人にはたまらないのかもしれない。

冒頭に陰惨な事件が起こり、それがさも関係するような流れとなる。アキの存在が、すべての鍵を握っているのだが、読者に何かを想像させる様々な仕掛けがある。特に純真無垢で穢れを知らないような双子の存在が、事件を複雑にしている。子供に対して必要以上に厳しい父親というのも、秘密主義を貫く理由となり、物語を盛り上げている。そして、当然のように存在する精神を壊した母親。その原因や、時おり突発的に起こす行動が物語のヒントになっているのだが、ホラーを演出するにはもってこいのキャラクターたちだ。

すべてがそろった環境の中で、ホラーミステリーは展開される。期待通りのホラーであることは間違いない。ただ、作者の作品である殺人鬼のようなグロテスクな恐怖だとか、館シリーズのようなあっと驚くオチというのはない。すべてにおいて平均的であり、納得はできるが、特別な印象はない。シリーズとしては前作の方がまだミステリー的な工夫があったり、舞台が特殊ではあった。それに比べると、本作はあまりにオーソドックスすぎるのかもしれない。悪くはないが、特別良くもないといったところか。

作者にしては、オチがオーソドックスすぎると感じた。




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