降霊会の夜  


 2012.7.11   知らなくても良い過去がある 【降霊会の夜】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

初老の男が経験した奇妙な出来事。過去の悲惨な出来事や、青臭い青春の思い出を解明する。降霊会により、会えるはずのない人物と会話することで、過去の出来事がしだいに明らかとなる。どことなく藪の中的な流れではある。あの出来事の真実はどうだったのか。あの時、どんな思いでいたのか。まず、強烈なインパクトがあるのは、山野井清の悲惨な事件だ。実の父親に当たり屋を強制された結果、事故死した清。そのとき、いったい何が起こっていたのか。様々な人の視点から事件が語られ、ついには清本人が登場してくる。降霊会により、過去の呪縛から解き放たれるたぐいの物語かと思いきや、より深い結末がまっている。過去の真実が知れたからといって、すべての人が解放されるわけではない

■ストーリー

謎めいた女の手引きで降霊の儀式に導かれた初老の男。死者と生者が語り合う禁忌に魅入られた男が魂の遍歴の末に見たものは……。

■感想
降霊会により死者と生者が語り合う。過去の悲惨な出来事や、男がとらわれ続けたことの真実は何なのか。まず強烈なインパクトを放つのは、山野井清のエピソードだ。小学生時代の友である清。時代に翻弄され、父親の影響を色濃く受けた清。戦後の混乱期に、貧富の差や身分の違いやそれらを超えた何かが、清の心を悩ませていく。父親のために当たり屋を受け入れるのか、それとも…。清の心の真実を知りたいという思いが強くなり、何か新たな真実が登場してくるかと興味がわいてきたが…。大きなどんでん返しはなかった。

清の強烈なエピソード以外には、淡い青春の物語がある。若者らしい青臭い考え方と、相手の思いをまっすぐに受け止められない男の弱さ。清のエピソードとは正反対の一見、青春真っ只中で幸せな状況のようだが、そこに落とし穴がある。青春を共有した仲間の死というのは、人の心に暗い影を落とすのだろう。なぜ、彼女はあのとき自殺に近い行動をとったのか。その心の思いを、降霊会を通して知ることになる。この手のたぐいであれば、降霊会で心の重しが取れるはずだが、そうはならないのが、本作の特殊な部分だ。

死者との会話では、都合の良いことだけではない。求めた人物が登場しないこともある。死者だけでなく、生者が生霊として登場してきたりもする。過去の出来事をめぐって、死者の魂に糾弾されることもある。それら様々な人の視点により、過去の出来事が解明されていく。そこには心の問題に重点が置かれており、その時代ならでは問題もある。過去のわだかまりを、降霊会で死者と会話することで解決するというのは面白い手法だが、物語は常に陰鬱な雰囲気をかもし出している。

結局、知らなくても良い過去の出来事のようにすら思えてしまう。




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