木洩れ日に泳ぐ魚  


 2011.1.29  緊迫した男女二人の心理戦 【木洩れ日に泳ぐ魚】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

最初は別れを決意した男女の思い出話かと思っていたが、物語は次第に変わっていく。過去の事件や自分たちの出自の話などを思い出と共に語り、推理していく。二人の関係が単純な恋人同士であれば、これほど不自然な雰囲気にはならないだろう。訳ありの二人が、お互いの心を探るように言葉をつむぐ。その心理戦は、窒息しそうなほどの緊迫感だ。ただ、物語の根本ともいえる謎がイマイチすっきりしないのと、二人が思い出から推理する内容が、何の脈略もなく突然思いだすということに、ご都合主義を感じてしまった。最初は山中で起きた不可解な事故の謎を探り合うのかと思いきや、次々とメインの内容は変わっていく。この変わり方は非常にスムーズだ。

■ストーリー

舞台は、アパートの一室。別々の道を歩むことが決まった男女が最後の夜を徹し語り合う。初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿―共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは。

■感想
一緒に住んでいた部屋からそれぞれが引越しをする。男女の別れの一場面としては、いろいろと想像力をかき立てられるだろう。別れを目前に控えた二人が、ある事故の真相を探ろうとかけ引きが始まる。てっきりこのまま事故の真相をめぐる推理合戦が始まるのかと思っていた。当時の状況を思い出しながら、重箱の隅をつつくような小さなヒントを駆使して推理を成立させていくパターンは、作者の作品ではおなじみかもしれない。そのパターンを予想していたが、推理する対象が次々と変わっていくのが本作の特徴だ。

山中で起きた事故の原因を探る序盤。そこから、お互いの出自について推理し、最終的には二人の愛が本物だったのかという考えにいたる。部屋の中で会話する男女と、その男女が回想するシーンのみで構成されている本作。動きは少ないが、思い出から推理するという強引な手法に多少違和感を持つかもしれない。はっきりとした証拠が示されないまま、こうだったからこうだ、というように状況証拠から真実を導き出そうとする。納得はできないが、物語は強引に進んでいくことになる。

事故の推理から始まり、最終的には二人の愛はなんだったのかということになる。愛とは…、なんていう哲学的な問いかけではなく、お互いの考えがそれぞれの心の中で語られている。そのため、どちらかの考え方に共感できれば、それなりに楽しめることだろう。禁断の愛なのか、それとも真実の愛なのか。はたまた、ただの幻想なのか。大きな事件や、不可解な出来事が起こるわけではない。純粋にミステリーとはいえないかもしれないが、雰囲気はある。

男女二人の心理戦は、その緊迫感に読む方も疲れてしまう。




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